初代ポケモンアニメ映画『劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲』を、ヒーローズ・ジャーニーの枠組みで分析してみる。
前置き
『ミュウツーの逆襲』にはいくつかのバージョンがあるが、今回は完全版をもとに分析する。
サトシのヒーローズ・ジャーニー
まずはサトシのヒーローズ・ジャーニーについて分析する。
サトシはシリーズ全体の主人公だし、この物語の中でも主人公的な立場を取り続ける。 しかし主題にはそれほど関わらない。
ヒーローズ・ジャーニーに基づくあらすじ
サトシのヒーローズ・ジャーニーはかなり典型的でシンプルなものになっている。
日常の世界
サトシはポケモンマスターを目指す旅の途中にいる。
冒険への誘い
彼のもとに、カイリューがやってきて一通の招待状を渡す。前途有望なトレーナーとして、最強のトレーナーがいるポケモン城でのパーティーに招待してくれるらしい。
冒険の拒否
サトシは招待を即座に受ける。<冒険の拒否>のステージは一見存在しないように見える。
強いて言えば、観客にしかわからないことだが「この招待主の正体はミュウツーである」ことが、今後の冒険の危険性を伝える役割を果たしていると言えるのかもしれない。
最初の戸口の通過
ポケモン城に向かいたいが、突然の嵐により渡し船が欠航となる。 実はこの嵐はミュウツーが用意した選抜試験だった。
サトシ達は向こう見ずな勇気とロケット団の助力により、この戸口の通過に成功する。
試練、敵、仲間
ポケモン城で、サトシ達はミュウツーに遭遇する。バトルの後、ミュウツーはトレーナー達のポケモンを無理やり奪い、コピー装置へ送る。
最も危険な場所への接近
サトシは奪われたピカチュウを追いかけ、施設の中枢であるコピー装置まで移動する。 コピー装置の部屋はもう一つの<非日常の世界>であり、ピカチュウを取り戻そうという強い情熱がこの戸口を通過する鍵だった。
最大の苦難
サトシはピカチュウを取り返そうとする。この時点で彼はこの部屋の持つ機能については認識していないことに注意が必要である。サトシはコピーの作成を阻止しようとしたのではなく、単にピカチュウを取り返そうとしただけである。
サトシがコピー装置に飲まれる様子は<クジラの腹の中>を連想させる。 サトシは再生し、ミュウツーに対峙することを決意する。
報酬
結局、コピーピカチュウは生成されてしまう。 だがサトシは同時にコピー装置を破壊し、その他のミュウツーに強奪されたポケモン全ての解放に成功する。
帰路
集めたトレーナーらのポケモンを強奪するという目的を達成したミュウツーは、残されたトレーナーに帰るよう要求する。
だがそこにサトシが現れ、強奪されたポケモン達と共に帰ってきた。
復活
サトシはオリジナルとコピーの争いの間に割って入り、バトルを止めさせる。 サトシはミュウとミュウツーの攻撃を受けて石化するが、ポケモン達の涙で<復活>を果たす。
一連の流れを見たミュウツーは戦闘をやめ、コピーポケモン達を連れて何処かへと飛んでいく。
おそらくミュウツーの力によって、この冒険に関する記憶やイベントは全て無かったことになる。 「理由は分からないが船着き場にいる」という結果だけが残った。これはサトシ達を<浄化>する役割を果たす。
宝を持っての帰還
彼らはポケモンマスターを目指す旅という日常世界に帰還した。 全ての過程は吹っ飛んでおり、冒険から得られた宝も無い。
<外的な問題>と<内的な問題>
- <外的な問題>
- ポケモンマスターになる
- 強いトレーナーと戦い勝利する
- ポケモンマスターになる
- <内的な問題>
- バトルに対する認識を深める
最終的に<非日常の世界>での一連のイベントは無かったことになる。これを厳密に捉えれば、サトシの抱える問題は進展しようがない。
ただ、物語の全てが無かったことになる直前でのサトシと物語の起点でのサトシを比較すると、そこには違いがある。 彼は一連のイベントを経て、バトルは哀れで残酷なものになり得るということを認識した。
ミュウツーのヒーローズ・ジャーニー
さて、ここまで語ってきたサトシの物語は、この物語のテーマとはそんなに関係がない。サトシは主人公的な活躍を果たしてはいるものの、彼はこの物語の主役ではない。
真の主役であるミュウツーの物語について検討していこう。 (後で書く)