洒落怖の名作をヒーローズ・ジャーニーの構造を使って分析してみるテスト。
続くかわからないけど記念すべき第一回目は「リゾートバイト」。 旅館に泊まり込みのバイトに行った若者 3 人が恐怖体験をして有能なお坊さんに助けてもらう話だ。
個人的には
- 土着の悪いものに憑かれる
- お坊さんが助けてくれる
- 一晩部屋に籠もりきって助かる
と洒落怖お決まりパターンって感じの展開であまり好きではなかった。
出自
しかし、もしかすると「リゾートバイト」こそがこのお決まりパターンの初出なのかもしれない。 ということで調べたのだが、初出がどこなのか、何年に発表された怪談なのかを正確に突き止めることはできなかった。
そもそも、一般的に初出は 2ch とされているが、果たして本当にそうなのだろうか?広くコピペされて普及しているが、2ch 特有の名前、投稿日、ID、がくっついたバージョンを見たことがない。 もちろん、コピペの過程でその部分だけ剥がされて流通したことも考えられる。だが、それ以外の 2ch 発とされる怪談は書き込み情報も大抵残っている気がする。不自然だ。
不完全な調査に終わっているが、とりあえずここまでの記録をまとめておく。
不思議.net
例えばこのまとめブログには、2011/04/29 掲載と書かれている。 だがコメント欄には 2017 年 2 月以降の書き込みしか無い。 Wayback Machineを使っても、2017/04/24 以前の記録はない。
怖話
怖話という投稿型サイトには、2011/07/16 のタイムスタンプでこの話が掲載されている。
ここでパスの末尾に注目してほしい。最後の整数はここに投稿されている物語の通し番号らしく、この作品は 2 番目に投稿されたもののようだ。 投稿者はこのサイトの公式アカウントであり、おそらく当時既に普及していた怪談をお試しで投稿したものと考えられる。
怖い話投稿:ホラーテラー
現時点での最有力候補は「怖い話投稿:ホラーテラー」である。
当時、インターネットで怖い話を公開する場所は洒落怖だけではなかった。 Wayback Machine では2009/10/04時点でこの物語が投稿されていることが確認できている。 怖い話まとめブログにも、しっかり出典付きで記録が残っている。やはり引用する時は出典明記は大事。
というか、現在古典的名作とされている洒落怖怪談のうちでも、実はかなりの数がその初出は「ホラーテラー」だったようだ。
- リゾートバイト
- パンドラ[禁后]
- 地下のまる穴
- 姦姦蛇螺
- リアル
などなど。これら全て、実は洒落怖発祥ではなく、ホラーテラー発祥だったのだ。これには私も驚いた。
…
さて、原典がわかってさっぱりしたところで本題に戻ろう。
念のため、作者のコメントとかもしっかり残したまま Wayback Machine の記録をコピーしておいた。考察はこのコピーをもとに行う。
ヒーローズ・ジャーニーのおさらい
ヒーローズ・ジャーニーとは、超ざっくり言うと「物語はこんな感じで作るといいよ」というガイドラインである。
詳細は この記事 を見てほしい。
ヒーローズ・ジャーニーは 12 のステージで構成される。
# | ステージ | 概要 |
---|---|---|
1 | 日常世界 | 主人公たちの日常を示す。賭けの対象を提示する。 |
2 | 冒険への誘い | 原状の問題を示唆し、冒険の賭けをつり上げる。 |
3 | 冒険の拒否 | 冒険の危険性を読者に提示する。 |
4 | 師との出会い | 冒険の準備をさせる。助言、魔法の道具の付与。 |
5 | 最初の戸口の通過 | 実際に冒険が始まる。日常世界の帰還限界点を超える。 |
6 | 試練、仲間、敵 | 特別な世界のルールを学ぶ。 |
7 | 最も危険な場所への接近 | 最深部の洞穴に入る準備や計画を行う。 |
8 | 最大の苦難 | 最大の恐怖に立ち向かう。英雄の死と再生。自我の超越。イニシエーション。 |
9 | 報酬 | 目的としていた霊薬、探し人、知識等の獲得。 |
10 | 帰路 | 日常世界へ帰ろうとする。奪取した報酬の持ち主に追われることも。 |
11 | 復活 | 死と再生の再演。帰還前に新たな存在に生まれ変わり身を清めなければならない。 |
12 | 宝を持っての帰還 | 報酬を日常世界に持ち帰り、共同体に役立てる。 |
ただし、これはあくまでガイドラインなので、全てのステージが存在している必要も、この順番通りに並んでいる必要もない。
日常世界
これは俺が大学3年の時の話。 夏休みも間近にせまり、大学の仲間5人で海に旅行に行こうって計画を立てたんだ。
「俺」は大学 3 年生。夏休みに友人 2 人を連れてリゾートバイトに行くことになる。
冒険への誘い
B「いやわかんねーけど。でも最近女将さん、よく2階に飯持ってってないか?」
バイトをはじめて一週間が過ぎた頃、「女将さん」の不審な行動に B が気づく。 数日後には「俺」もそれを目撃し、3 人で行動の正体を、そして 2 階には何があるのかを突き止めようという話になる。
冒険の拒否
俺達はそのとき、残り1ヶ月近くバイト期間があった訳で。 3人で、見てみぬふりをするか否かで話し合ったんだ。
果たして突き止めてよいものか?3 人は葛藤する。
来週には残りの2人がここに来ることになってるし、何事もなく過ごせば楽しく過ごせるんじゃないかって思った。
という一文には、<冒険の拒否>ステージのエッセンスが濃縮されているように思える。 このまま非日常の世界に飛び込まなければ、一見平和な日常は続けられる。しかし、冒険に出なければ、好奇心を満たすことはできない。
師との出会い
とりあえずそこに消えてった女将さんは、Bの言ったとおり5分ほど経つと戻ってきて、お盆の上の飯は空だった。
この場面で明確な師は存在しないものの、強いて言えば B だろう。 女将さんの行動を最初に指摘したのも、最もよく知っていたのも B だった。
最初の戸口の通過
A「鍵とか閉まってないの?」
というAの心配をよそに、俺がドアノブを回すと、すんなり開いた。
文字通り、2 階へ続く怪談のドアを開け、非日常の世界への<戸口の通過>を行う。
恐怖体験の始まりである。
試練、仲間、敵
B「いやマジで。匂わないの?ドアもっと開ければわかるよ」
3 人は次々と恐怖と不快な体験に襲われる。 ここから<最大の苦難>までは、一つのステージに縮退していると考えても良いのかもしれない。
最も危険な場所への接近
とりあえず俺一人行くことになったが、なにか非常事態が起きた場合は絶対に(俺を置いて)逃げたりせず、真っ先に教えてくれっていう話になったんだ。 ただし、何事もないときは、急に大声を出したりするなと。
2 階へ続く階段を登る前に、部隊の再編成を行う。
最大の苦難
2階の突き当たりのドアの淵には、ベニヤ板みたいなのが無数の釘で打ち付けられていて、その上から大量のお札が貼られていたんだ。 さらに、打ち付けた釘に、なんか細長いロープが巻きつけられてて、くもの巣みたいになってた。
この物語における恐怖の根源に接近する。
英雄である「俺」は、自身の記憶と実際の行動が食い違った状態になる。死と再生のモチーフを感じる。
報酬
B「いたよ。ずっと下から見てた」
そして少し黙ってから下を向いて言った。
B「今も見てる。」
一連の恐怖体験の報酬?として、B は<新たな知覚>を獲得する。
帰路
前日で死にそうな思いしたのにまさかのセンチって思うだろ?
だけど、実際すげー世話になった人との別れって、その時はそういうの無しになるものなんだわ。
こんな場所でバイトは続けられないと悟った 3 人は、バイトを中断し旅館を去る。
これで、3 人は旅館という非日常の世界を去ることになった。しかし、彼らはまだ非日常の世界の穢をひきずっているので、日常世界に帰る前にそれを浄化しなければならない。
復活
坊「この扉を開けてはなりません。皆、本堂のほうにおります。明日の朝まで、誰もここに来ることはありません。
そして、壁の向こうのものと会話をしてはなりません。このおんどうの中でも言葉を発してはなりません。居場所を教えてはなりません。
これらをくれぐれもお守りいただけますよう、お願いします」
事情を知るお坊さんの元で、3 人はお祓いを受けることになる。<最大の苦難>の再演。文字通りの<魔術による逃走>。3 人はもう一度恐怖体験に向き合うことになる。
個人的にガムの包み紙で筆談する件が結構好きなのだが、これは「おんどうでのお祓い」という局所的ヒーローズ・ジャーニーにおける<最も危険な場所への接近>ステージと捉えても良いのかもしれない。
宝を持っての帰還
女将さんを救うことができなかったと。 泣きそうなのか怒っているのか、なんとも言えない表情を浮かべてそう言った。 死んだのかと聞くと、そうではないと言うんだ。
3 人はこの怪異の裏側にある、土着の言い伝えをお坊さんから聞く。
この物語では、<報酬と懲罰>がしっかり描かれている。 3 人が得た報酬は生存であり、この怪異を引き起こした女将さんは救えない状態に陥ってしまう。
オズの魔法使いと同様に、3 人は自らに向かってこようとした死を、別の犠牲者へと逸したのだ。
結論
というわけで、「リゾートバイト」はかなり「ヒーローズ・ジャーニー」に則った型の物語だということがわかった。
傑作 2ch 怪談として今も語り継がれる所以の一つはここにあるのかもしれない。
参考文献
作家の旅路 ライターズ・ジャーニー: 神話の法則で読み解く物語の構造
クリストファー ボグラー 著、府川由美恵 訳
フィルムアート社, 2022
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