「ライターズジャーニー」を半分くらいまで読めたので、まちカドまぞく 2 丁目前半について以前より詳細な分析をしていこう。
注意
冗長さを省くためほとんどの文章を言い切りの形にしているが、実際にはこれらはすべて、私の推測にすぎない。
この考察が真実であるというつもりもないし、他の考え方に異を唱えるつもりもない。
この記事にはまちカドまぞく3巻およびまちカドまぞく2丁目6話までのネタバレを含みます。
参考文献
作家の旅路 ライターズ・ジャーニー: 神話の法則で読み解く物語の構造
クリストファー ボグラー 著、府川由美恵 訳
フィルムアート社, 2022
英雄の旅の旅
1949 年、ジョーゼフ・キャンベルは、「千の顔を持つ英雄」にて、「全ての(語り継がれる神話)物語は同じ構造を持っている」という主張をした。 これが、英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー、単一神話、モノミス)という概念である。
「千の顔を持つ英雄」はなかなか読むのが難しい。 1970 年代、ハリウッド映画脚本家、プロデューサーであるクリストファー・ボグラーは、これを創作、具体的にはハリウッド映画の脚本術として使おうと考えた。
こうして生まれた 7 ページの「千の顔を持つ英雄実践ガイド」は、いつの間にかハリウッドやディズニーの脚本家たちの必読資料となっていた。
「ライターズ・ジャーニー」は、この派生物として書かれたものである。
英雄の旅(ヒーローズ・ジャーニー)
本稿ではまちカドまぞく 2 丁目前半の考察をしていく。
分析にあたっては、基本的にはボグラーの「ヒーローズ・ジャーニー」モデルを用いる。 つまり、旅の各ステージはキャンベル版ではなくボグラー版を採用する。
これは、あえてキャンベル版ヒーローズ・ジャーニーを離れてボグラー版ヒーローズ・ジャーニーを深く理解したいが故である。だから、キャンベル版を用いて面白い解釈ができそうな場合には、それにも言及するかもしれない。
旅の地図
さて、ライターズジャーニーでボグラーが定義している英雄の旅は、以下の 12 ステージに分かれている。
英雄(物語の主人公)(達)は、これらのステージに沿って冒険する。
各ステージの概要を以下の表に示す。詳細はこの後の章で取り扱う。
# | ステージ | 概要 |
---|---|---|
1 | 日常世界 | 主人公たちの日常を示す。賭けの対象を提示する。 |
2 | 冒険への誘い | 原状の問題を示唆し、冒険の賭けをつり上げる。 |
3 | 冒険の拒否 | 冒険の危険性を読者に提示する。 |
4 | 師との出会い | 冒険の準備をさせる。助言、魔法の道具の付与。 |
5 | 最初の戸口の通過 | 実際に冒険が始まる。日常世界の帰還限界点を超える。 |
6 | 試練、仲間、敵 | 特別な世界のルールを学ぶ。 |
7 | 最も危険な場所への接近 | 最深部の洞穴に入る準備や計画を行う。 |
8 | 最大の苦難 | 最大の恐怖に立ち向かう。英雄の死と再生。自我の超越。イニシエーション。 |
9 | 報酬 | 目的としていた霊薬、探し人、知識等の獲得。 |
10 | 帰路 | 日常世界へ帰ろうとする。奪取した報酬の持ち主に追われることも。 |
11 | 復活 | 死と再生の再演。帰還前に新たな存在に生まれ変わり身を清めなければならない。 |
12 | 宝を持っての帰還 | 報酬を日常世界に持ち帰り、共同体に役立てる。 |
旅の中で始まる旅
お楽しみはこれからだ!
–シャドウミストレス優子 2 丁目 1 話
旅の途中で、英雄は障害にぶつかることがある。その障害を乗り越えることも、また別の小さなヒーローズ・ジャーニーとして扱うことができるものとする。
何故そんな設定をするのかといえば、まちカドまぞくは現在単行本で 6 巻以上続いている物語であり、今回分析するのはその中盤の第 3 巻のイベントのみだからである。
つまり、作品が完結するまでの最大のヒーローズ・ジャーニーの過程で発生した、サブ・ヒーローズ・ジャーニーとして 3 巻を分析したい。
例えば、町のまぞく探しを開始し、喫茶あすらへ向かうまででは、2 巻第 3 幕であり 3 巻第 1 幕でもあると考える。
3 巻で、シャミ子は「なんとかの杖」を手に入れる。これは 2 巻の一連のイベントの終盤でもあり、3 巻のイベントの序盤でもあるということだ。
2 巻で、シャミ子は桃の夢の中へ再侵入し、父ヨシュアのことを知った。この「最大の苦難」の「報酬」として杖を得たと考えることができる。 一方、なんとかの杖は 3 巻の冒険を遂行するため、師から与えられた魔法の道具と考えることもできる。
では、実際に 3 巻のイベントをステージごとに割り当てて考察していこう。
日常世界
journey
title 第1幕 別離
日常世界:5
冒険への誘い:5
冒険の拒否:5
師との出会い:5
最初の戸口の通過:5
① 桜さんを探すために
② 町のまぞくを探したくて
③ あと強くなって家の封印を解きたいんですけど
④ お父さんが箱になっていて謎が謎を呼んだんです
⑤ そして桃を闇の眷属にしたい…
–シャドウミストレス優子、 2 丁目 1 話
日常世界は、「背景」や「提示」を扱うのに最適な場である。 また、物語のテーマを表明する場でもある。
つまり、登場人物の背景、歴史、世界、社会状況、敵対勢力を明らかにすると同時に、「この物語はなんの物語なのか」を伝える。
3 巻のテーマとは?
3 巻では色々と大きなイベントが起こるが、その中で一つ、核となるテーマを取り上げるとしたら何だろうか?
それは、アニメ 2 丁目 1 話 4 分 20 秒あたりでシャミ子の担任(文字通りの<師>)が
- 「千代田さんにはもう少しお友達がいるといいな」
- 「個人事業まぞくのシャミ子さんは従業員を増やしたほうが名前にあっている」
と言うように、シャミ子と桃の間に健全な協力関係を築くことである。
夏休みのはじまり
2 巻のイベントから帰還しつつある我らの英雄シャミ桃は、最大の苦難を超えた「報酬」を満喫している。つまり、デートを満喫し、魔のもの達は吉田家ですき焼きパーティーを開く。
<外的な問題>と<内的な問題>
次のステージに進む前に、シャミ桃が今抱えている、そしてこれからの冒険で解決しようとしている問題について整理しておこう。
ボグラーは内的な問題と外的な問題について、
どんな主人公にも、取り組むべき内面と外面の双方の問題が必要である。
(略)
だが、登場人物が解決しなければならない、やむにやまれぬ内面的な問題のほうを与え忘れてしまう書き手も少なくない。
内的な試練がない登場人物は、どんなに英雄的なおこないをしても、平板で単調に見えてしまう。 登場人物には、内的な問題、性格上の欠点、解決しなければならない道徳的ジレンマなどが必要だ。
(略)
観客は、登場人物が学び、成長し、人生における内面と外面の両方の試練に対処していくところをみたがるものだ。
P143
と述べている。
また、最終ステージで持ち帰る<宝>について、
<ヒーローズ・ジャーニー>のどのステージもそうだが、<宝を持っての帰還>とは、文字どおりの意味になることもあればメタファーとなることもある。 最高の<宝>は、主人公や観客に、さらに高次の認識をもたらすものだ。
P325
とも述べている。
ボグラーが「タイタニック」で行っていたのと同様に、ここでシャミ桃の抱える問題について考えてみる。
シャミ子の抱える問題
シャミ子は以下の問題を抱えている。
- <外的な問題>
- 呪いの完全解除
- 桃を闇の眷属に
- <内的な問題>
- 桃に認められたい
- 一人で戦う術を身につける(「私は一人じゃ戦いぬけないから一緒に戦って」)
一家にかけられた呪いは 1 巻で部分的解除に至ったものの、まだ完全ではない。
シャミ子は桃を眷属にしたいと思っており、2 巻ラストで桃にそれを提案したものの、あと一歩のところで失敗している。
シャミ子自身が気づいていないものの、これから気づき解決しようとする内的な問題は、一言で言えば自身の無力感に起因する。
シャミ子は自身の持つ能力の全容を把握していないし、それを活用することもできていない。 自身の能力を理解し活用することで、現状おんぶにだっこ状態となっている千代田桃に恩を返し、単なる保護対象ではなく頼りになる仲間になりたいと願っているように見える。
正直ここは<内的な問題>だけあって間接的に推測するしかない。 だが、喫茶あすらカチコミの際に白澤店長が桃に指摘したように、シャミ子は重荷に感じつつも、千代田桜捜索に貢献したいと思っている。
千代田桃の抱える問題
- <外的な問題>
- 千代田桜の捜索
- 街を守る
- シャミ子の保護
- 千代田桜の捜索
- <内的な問題>
- シャミ子との関係性
- 他の人に頼ることを学ぶ(「貴様は一人でなんでもいい感じにしようとし過ぎ」)
千代田桃がこの街に帰ってきたのは、そもそも千代田桜捜索のためだった。そしてその目的はまだ達成されていない。
千代田桃は危険な魔法少女がこの町にやってくること、特にシャミ子が討伐されることを恐れており、そういった危機から町やシャミ子を保護することも彼女の外的な問題である。
彼女の抱える内的な問題は、一つはシャミ子との関係性である。桃はシャミ子にほぼ愛慕といって良いほどの感情を抱いているものの、本人はそれに無自覚なように見える。
もう一つの内的な問題は、3 巻冒頭でシャミ子が指摘するように「一人でなんでもいい感じにしようとし過ぎ」な点である。
冒険への誘い
シャミ子よ、その状況だと最優先すべきは千代田桜の手がかりを探すことだと思うぞ?
– リリス、 2 丁目 1 話
主要登場人物の紹介が終わったら、物語を動かす何らかの出来事が必要になる。
現状の日常世界に不足しているものが明らかにされ、この先、敢えて非日常の世界に飛び込む理由が提示されていく。
ごせんぞすごいです
やりたいことが多くて混乱しているシャミ子に対して、ごせんぞは「まず千代田桜を探すのが良い」と道を示す。ここでごせんぞは、英雄に道を示す師/老賢者のアーキタイプの役割を果たす。
桃の笑顔が見てみたい
すきやきパーティーにミカンを呼んだことで、ヨシュアが封印されているお父さんボックスはミカンの実家の工場で使っていた段ボール箱と同一のものだったことが判明する。
3 人は廃工場に向かう。2 人だけになった際、シャミ子はミカンから「昔はもっと明るかった」と聞く。その日の夜、シャミ子はそのことをふと思い出し、「桃の笑顔が見てみたい」と考える。
ミカンは冒険のヒントを授ける師であると同時に、冒険のきっかけを英雄に与える使者でもある。 「このまま日常世界にいるだけでは、桃が笑顔になることは無い。桃の笑顔を取り戻すための旅に出なければならない」とシャミ子を促したのだ。
冒険の拒否
まぞくの一発芸… ムシバキン…
– シャミ子、 2 丁目 2 話
ここから主人公の問題は、誘いにどう応じるかということになる。
このステージには、英雄が一度冒険を拒否することで、その危険性を強調するという重要な演劇的機能がある。 冒険の先には大きな報酬が待っており、しかしそこに至る道は決して平坦なものではない。英雄はこれから大きなギャンブルに出る必要があるということを伝える。
虫歯菌
境界の守護者に対して
自分の器以上に無謀な挑戦をすれば、恥ずかしいくらいの失敗を招く
ジョーゼフ・キャンベル、千の顔を持つ英雄
とキャンベルは主張する。ここではシャミ子がその状態にある。 現在のシャミ子には、桃を笑顔にできる力は無い。また、その道はしょうもない一発芸程度で拓けるようなものでもない。
つぶやいたー
ワイファイが導入されつぶやいたーにアクセスできるようになったことで、シャミ子と桃は互いをより深く知りたいという気持ちを強くする。彼女らが互いの過去を知るためには、非日常の世界へ冒険するしか無い。
桃はごせんぞに賄賂を送り、千代田桜の情報を聞き出そうとする。しかしごせんぞは最早師の力を失っており、その情報を与えることはできない。
桃とごせんぞの接近
シャミ子はごせんぞに身体を貸し、桃とごせんぞ in シャミ子は多魔健康ランドに向かう。
このシーケンスは 3 巻のイベントとはあまり関係ないように見える。 もしかすると、より小さな円環である「喫茶あすらへの侵入」の旅における、「最も危険な場所への接近」のステージと理解するのが良いかもしれない。
「最大の苦難」の直前に、英雄(達)は態勢を整える必要がある。これが「最も危険な場所への接近」のステージであり、しばしば最後の戦いの前のつかの間の安息を利用して、英雄は準備やグループの再編成を行う。
師との出会い
こっちを見て…
千代田桜、二丁目 2 話
英雄は師の手助けで冒険の準備をおこなう。師は保護を与え、導き、教え、試し、訓練し、魔法の贈り物をする。こうして、英雄は恐れを克服し、非日常の世界の戸口に立つことができるようになる。
なんとかの杖取得
シャミ子は陽夏木家の廃工場を探索する。 シャミ子が「みんなが仲良く…」と言いかけたところで、シャミ子は謎の声を聞く。 その声の示す箇所を掘り起こすと、そこに「なんとかの杖」があった。
なんとかの杖はもともと父ヨシュアの持ち物であり、これはヨシュアからの贈り物である。 また、シャミ子に杖を見つけさせたのは千代田桜だから、千代田桜からの贈り物でもある。
なんとかの杖は「石の中の剣」である。シャミ子以外の誰もこの場所でこの特定の武器を引き抜くことはできなかった。そして声を聞くには、「みんなが仲良くなりますように」という言葉によって千代田桜との波長を合わせる必要があった。
キャンベルによれば、召命を
ただ知って信じるだけでいい。そうすれば永遠の守護者が現れる
というが、実際そのようになった。
なんとかの杖は、2 巻までの冒険の報酬として得られた宝でもある。シャミ子は宝を持って帰還し、次の冒険への備えを完了する。
喫茶あすらへ
佐田杏里から情報を得たシャミ子は、喫茶あすらへと向かう。この場面の他にも、佐田杏里は顔の広い情報通として、しばしば師のアーキタイプを取り、シャミ子達の手助けを行う。
最初の戸口の通過
まぞく穴に入らずんばまぞくを得ず!たのもー!
シャミ子、2 丁目 4 話
いま、英雄は特別な世界の戸口に立っている。 英雄が通過を遂げるには勇気が必要だ。信念を持って跳び、なんとか安全に着地できることを信じるしかない。
しかし、この信念の跳躍は必ずしも軟着陸に終わるとは限らない。
喫茶あすら訪問
シャミ子はまぞくを探しに喫茶あすらへ訪問したはずだが、成り行きでバイトを始めることになり、魔力料理で健忘が出て本来の目的を忘れてしまう。 このままではシャミ子が喫茶あすらに捕らわれてしまう。桃達は喫茶あすらへのカチコミを決行する。
これは戸口の番人のアーキタイプを被ったリコくんに、戸口で冒険の足止めを食らっていると考えることができる。 もちろん、白澤店長やリコくんは一時的に戸口の番人となっているだけである。 適切に回避さえすれば、敵に見えた彼らは、即座に価値ある仲間に変わる。
喫茶あすらの訪問は、3 巻全体の流れの中で見れば「最初の戸口の通過」と考えるのが良さそうに思うが、他の円環を通してみると違う意味を見出すこともできる。
白澤店長が桃に、シャミ子は桃の頼み事をプレッシャーに思っているのではないかと指摘する。 シャミ子はまだ、千代田桜捜索という冒険に出る決心が付いていなかった。シャミ子はこの冒険の拒否のステージにいると考えることができる。
桃にとっても、このステージは冒険の拒否のステージと言える。白澤店長の指摘は、同時に、桃にこの冒険の危険性を改めて認識させる。
シャミ子の就職断固阻止作戦
シャミ子が危険な領域に単独で接近し、そこからの帰還ができなくなり、桃が「外からの救出」(キャンベルの言うところの)を実行する。 この構造は、この後のシャミ子自身の深層意識への侵入という冒険の成り行きと全く同じである。
試練、仲間、敵
journey
title 第2幕
section 第2幕A 試練への降下
試練、仲間、敵:5
最も危険な場所への接近:5
section 第2幕B イニシエーション
最大の苦難:5
報酬:5
魔法少女!何故ここに!
白澤店長、2 丁目 5 話
英雄はついに特別な世界に突入した。特別な世界は日常の世界とは全く異なるルールに支配されている。
英雄はさまざまな試練に打ち勝ちながら、この世界のルールを学び、仲間を作り、次の試練への訓練を積まなければならない。
白澤店長、リコくんとの和解
喫茶あすらの 2 人は、シャミ子に迷惑をかけたことを謝罪しに喫茶あすらを訪れる。 彼らと桃は即座に和解し、当初期待した通り戸口の門番は新たな仲間となった。
また、彼らにとっては、シャミ子が喫茶あすらを訪れたことは、ばんだ荘という特別な世界へ誘う使者でもある。彼らには彼らなりの冒険が待ち構えており、一連のイベントはその起点となる。
「水飲み場」としての喫茶あすら
物語のこのステージでバーや酒場に行く主人公は多い。
水飲み場は自然の集合場所であり、状況を観察し情報を得るのにうってつけの場所である。現代においては、酒場が狩りにおける水飲み場の機能を提供する。
喫茶あすらという水飲み場は、5 巻でその真価を発揮する。
最も危険な場所への接近
だってバクさん、とっても大切なこと言ってる! 猫さんを見たのは何年前の何月何日!?
吉田良子、2 丁目 5 話
特別な世界への順応が完了した英雄は、冒険の中心となる苦難にそなえ、最後の準備をする。
新たな情報
白澤店長とリコくんは、千代田桜に関する新たな情報を提供する。吉田良子は情報を適切に処理し、シャミ子が 10 年前に接触した猫が千代田桜だったことを突き止める。
準備を整える
しかしシャミ子は 10 年前のことを普通には思い出すことができない。ごせんぞはシャミ子の持つ力についてより詳細な説明を行い、「あらゆる有情非情の無意識に侵入する力」を自分自身に適用して過去の記憶を無意識から掘り返すことを提案する。
自身の深層意識への侵入
シャミ子は自身の深層意識へ侵入する。ひたすら続く病院の廊下の中を、幼少期の嫌な記憶が、注射器や点滴といった形で具現化している。 ここでシャミ子はミカン箱を被り、これらの戸口の門番の突破を試みる。
ボグラーによれば、
接近のステージには、自分のじゃまをしているように見える相手がいたら、その懐に入り込むことを学ぶという側面がある
という。
つり上がる賭け金
ごせんぞはシャミ子を見失ってしまう。このままだと、シャミ子は数日間自身の無意識の底で数日悪夢にうなされて寝込むことになる。
接近のステージのもう一つの役目は、賭け金を上げ、チームを団結させ、これが生死のかかった緊急事態だということを強調することにある。
なんとかの杖の使い方を学ぶ
謎の声のアドバイスに従い、シャミ子はまた一つこの世界のルールを学ぶ。 「なんとかの杖」は、夢の中限定で何でも倒せるずるい武器として利用することができるのだ。
ずるい武器によって、シャミ子は嫌な記憶を退けることに成功する。2 巻までの冒険で得た宝が、新たな門番を破り、戸口を開くための通行証として機能したのだ。
最大の苦難
これで勝ったと…
シャミ子、6 話
英雄は生まれ変わるために一度死ななければならない。
アーキタイプのシフト
千代田桜との会話を終えたシャミ子は、再び嫌な記憶に襲われる。ずるい武器を持ちながら体力不足によりジリ貧に陥ったシャミ子は、ついに行き止まりまで追い詰められる。シャミ子は英雄の仮面を、無力な犠牲者の仮面と取り替えることになる。
自我の死
一方その頃現実の世界では、桃はシャミ子を救うための方法を懸命に考えていた。千代田桃はガロン単位の生き血の提供まで提案する。
ボグラーによれば、
主人公は、個人の命を、より大きな集合体の命のために危険にさらし、「英雄」と呼ばれる権利を勝ち取るのである。
最終的に桃は、シャミ子の無意識に侵入するためのより良い解決策を閃く。しかしいずれにせよ、ごせんぞの「自分の夢ならば脱出できなくなっても死ぬことはない」という言葉からは、「他人の夢から脱出しそこねると死ぬ場合がある」ことが読み取れる。
シャミ子を救うため、合理性を放棄して自ら危険な場所への接近を果たした桃の行動は、文字通り英雄的なものである。
聖なる結婚
嫌な記憶に追い詰められ、ついに万策尽きたかと思われたその時、闇堕ちした桃が現れ、シャミ子の窮地を救う。 桃は部分的に眷属契約を結び、精神だけ闇堕ちしてシャミ子の無意識に侵入したのだった。
2 巻までの冒険で学んだ通り、「眷属とは契約によって結ばれた魔力上の血縁関係みたいなもの」である。吉田清子の言葉によれば、ヨシュアと清子も眷属契約を結んだのだという。
つまり、千代田桃はシャミ子の親族になったのだ。
報酬
最も危険な場所に住み着いていたドラゴンを殺すか打ち負かすかした主人公は、勝利の剣をつかみ、報酬を要求する。 このステージの本質的な側面の一つは、主人公が探してきた何かを手に入れるということだ。
千代田桜との邂逅
謎の声の正体は千代田桜だった。千代田桃本人の口から、彼女のコアはシャミ子の中に埋め込まれていたことが語られる。 探していたものはずっとシャミ子の内面にあったのだ。
① 桜さんを探すために
② 町のまぞくを探したくて
③ あと強くなって家の封印を解きたいんですけど
④ お父さんが箱になっていて謎が謎を呼んだんです
⑤ そして桃を闇の眷属にしたい…
–シャドウミストレス優子、 2 丁目 1 話
この時点で、シャミ子は部分的ながら ① と ⑤ を同時に達成することに成功した。
イニシエーション
千代田桜はついでに街を守るようシャミ子に依頼する。
シャミ子は自分の価値を証明し、千代田桜の仲間として受け入れられた。
帰路
journey
title 第3幕
section 第3幕 帰還
帰路:5
復活:5
宝を持っての帰還:5
最大の苦難を経て報酬を得た英雄は、特別な世界にとどまるか、日常世界へ帰還する旅を始めるかの選択を強いられる。
動機
闇堕ちした桃にはダークネスピーチという名前だったりお腹の傷だったり気になる点が色々ある。シャミ子はそれが気になって仕方がないが、桃はしっぽひもを掴んでシャミ子を無理やり日常の世界へと連れ戻す。
ごせんぞが展開した脱出口には上部に「日常口」と書かれている。「非常口」の対義語として「日常口」としたのだといえばそれまでだが、このシーンがちょうど日常の世界への帰還のステージに相当するのは偶然じゃないような気もする。
ちなみに脱出口の外縁部には「היציאה היא כאן」=「出口はこちら」と書かれているらしい。
ヘブライ語辞書持ちの知り合いに検証してもらった
最初の(一番右の)単語が出口、出ていくの意味。
2 単語目が彼女、あれの意味?
3 単語目が場所。
辞書には原形しか載ってないのですぐにはわからないらしい。
復活
物語が完結したと観客が感じるためには、最大の危機とよく似た死と再生の瞬間をもう一度体験する必要がある。
これによって、英雄は非日常の世界の冒険を経て本当に変化したのだということが伝わる。
登場人物のこの変化は、台詞ではなくふるまいや外見で示さなければならない。
浄化
桃は精神だけ闇堕ちした状態にある。日常の世界に完全に帰還するためには、浄化を遂げる必要がある。 桃はミカンの矢を受けることで、ひとまず一時的な闇堕ち状態から復帰する。
ボグラー曰く、
<復活>の役目の一つは、<英雄>から死の匂いを浄化しつつ、それが試練の教訓として残るよう助けることだ。
変化
桃は闇堕ちから復帰したが、今回の旅で得たものをすべて失ったわけではない。外見の変化は髪飾りや服装などに現れ続けるし、病むと闇堕ちする体質を獲得している。
宝を持っての帰還
英雄は特別な世界で手に入れた宝を持って帰還し、他者に分け与えたり、傷ついた土地を癒やしたりする。
英雄が帰ってくるのは、最初にいたのとは少しずれた日常世界である。冒険の教訓が英雄に不可逆的な変化をもたらしたからだ。
シャミ子の帰還
千代田桜の居場所という情報を得たシャミ子は、千代田桃にそれを伝える。 コアが埋め込まれているためすぐに返すことができないことを気まずく思うシャミ子だが、桃は居場所がわかっただけで十分だと言う。
実際、これはシャミ子を慰めるためではなく本心からの言葉だろう。桃にとって、千代田桜捜索の優先度はもはやそれほど高くない。千代田桜やごせんぞが指摘し(ようとし)た通り、今や桃の最大の目的は、シャミ子を守ることである。
新たな旅の開始
シャミ子は超強いまぞくになってコアを取り出すことと、街を守ることを新たな目的とする。 桃は千代田桜捜索のためでなく、シャミ子の笑顔を守るためにこの街を守ることを新たな目的とする。
桃の笑顔
シャミ子は桃を笑顔にすることに成功する。 これは紛れもなく、シャミ子が今回の冒険で得た宝である。
旅を振り返って
<外的な問題>と<内的な問題>は解決したか?
シャミ桃は自身の抱える<外的な問題>と<内的な問題>を解決することができただろうか?
シャミ子の抱える問題
- <外的な問題>
- 呪いの完全解除
- 桃を闇の眷属に
- <内的な問題>
- 桃に認められたい
- 一人で戦う術を身につける
- 新たな<責任の宝>
- 千代田桜のコアを取り出せるよう、強いまぞくになる
- 街を守る
シャミ子は自身の「夢に侵入する能力」への解像度を高めることができた。 また、深層意識下で桜と会話し、なんとかの杖の真価にも気づくことができた。 これらの能力を活用して千代田桜の居場所を突き止め、桃にそれを伝えることに成功した。 また、シャミ子も予期していなかった展開により、桃が部分的に闇堕ちし、眷属契約を結ぶことに成功した。
冒険によって得た新たな<宝>として、シャミ子は新たな責任を請け負うことになった。 千代田桜のコアはシャミ子に埋め込まれており、現状ではそれを取り出して桃に返すことができない。発覚した新たな借りを返さなければならない。 また、千代田桜からはついでで街を守るよう依頼された。
これらは解決しなければならない新たな<外的な問題>であり、今後の冒険で取り組む必要がある。
千代田桃の抱える問題
- <外的な問題>
- 千代田桜の捜索
- 街を守る
- シャミ子の保護
- 千代田桜の捜索
- <内的な問題>
- シャミ子との関係性
- 他の人に頼ることを学ぶ
- 新たな<責任の宝>
- シャミ子の笑顔を守るために街を守る
桃は千代田桜の居場所を突き止めることに成功した。これによって、街を守る必要がなくなった。
しかし今回の冒険で、千代田桜よりも街よりも大事に思っているものがあることに気づいた。すなわちシャミ子である。
千代田桃は、「シャミ子が笑顔になれるだけの極々小さな街かどだけを全力で守れたら、それが私の新しい目標になる気がする」と、理由を変えて引き続き街を守ることを決心する。
考察
こうしてみると、3 巻では二人の抱えていた内的な問題が見事に解決されている。
また、冒険の結果シャミ桃は正式に「街を守る」ために共同戦線を張ることとなった。このことは「ぽっきんアイスの誓い」によって象徴的に描かれる。 これによって、「シャミ子と桃の間に健全な協力関係を築く」というテーマは成功裏に解決される。
3 巻のカタルシスが大きいのは、これが原因かもしれない。