目次
TL;DR
- NOAA衛星は、2025年8月をもって137MHz帯のアナログ気象衛星の運用を完全に終了している。
- 現在、137MHz帯で地球の写真を降らせてくれるのは、ロシアのMeteor-Mシリーズのみである。
はじめに
METEOR M2からの衛星画像受信はとてもおもしろかった!!
手作りのテープメジャー八木アンテナで宇宙から直接フルカラーの地球写真を受信できた感動冷めやらぬ中、Gemini先生から不穏な話を聞いた。曰く、「手軽なアンテナで衛星画像を受信できる時代は、もう間もなく終わりを迎える」らしい。
というのも、長年親しまれてきたアメリカの気象衛星「NOAA」シリーズはどれも老朽化が進んでおり、ロシアのMeteor衛星もいつ壊れるか分からないとのこと。
ならば、受信できる今のうちにこのアクティビティを満喫しておくべきだ!
…ということで、最大仰角62度という素晴らしいコースで東京上空を通過するアメリカの気象衛星「NOAA-19」の迎撃作戦を決行することにした。
作戦失敗
2026年10月7日、21時45分。 私は自作の3エレ八木アンテナ、MacBook、RTL-SDR V4を抱え、マンション最上階の非常階段の踊り場にいた。
ターゲットは NOAA-19。周波数は 137.100 MHz。通過ピークの21時53分。iPhoneのARアプリを信じ、西の空高くへ向けてアンテナを掲げ続ける。
Meteorの時と違ってアナログ伝送(APT方式)なので、受信できればイヤホンから「ピコッ、ピコッ、ピコッ」という心電図のようなリズミカルな音が直接聞こえてくる…はずだった。
何も聞こえない。
画面のウォーターフォールを見ても、137.100MHzのラインは真っ平ら。ノイズフロアが微動だにしない。
すぐ隣の 136.8MHz 付近では、上空の航空機が飛ばしているテレメトリデータ(VDL2)がビンビンに受信できている。つまり、アンテナもSDRも完璧に動作している。
夜風に吹かれながら焦る私。だが、いくらアンテナを振っても、空からは一筋の電波すら降ってこなかった。
失意のまま部屋に戻り、RedditのSDRコミュニティを調べてみると、以下の記述が出てきた。
“Doge shut them all off.”(DOGEが全部止めやがった)
“All of them are dead, do meteor instead.”(全機死んだよ。Meteorをやれ)
は????
NOAAの137MHz送信は「2025年8月」に完全終了していた
調べたところ、アメリカのNOAA衛星(15号、18号、19号)による137MHz帯のアナログ画像送信(APT)は、2025年8月をもって全機恒久的に停止していた。
日本語での情報があまり無い気がするので、他の人が同じ悲劇を繰り返さないよう、Gemini先生ディープリサーチ結果を以下に記載しておきます。
POESプログラムの退役タイムライン
1978年のTIROS-N打ち上げ以来、47年間にわたって世界中のアマチュア無線家や教育機関に親しまれてきたNOAAの第5世代極軌道衛星(POESシリーズ)は、2025年夏に相次いでその歴史に幕を下ろした。
| 衛星名 | 国際標識番号 | 打上年月日 | 137MHz帯 周波数 | 送信停止日時 (UTC) | 退役の工学的契機 |
|---|---|---|---|---|---|
| NOAA-18 | 2005-018A | 2005年5月20日 | 137.9125 MHz | 2025年6月6日 17:40 | Sバンド送信機(STX-4)の出力低下によるデータ欠落 |
| NOAA-19 | 2009-005A | 2009年2月6日 | 137.100 MHz | 2025年8月13日 16:55 | バッテリー1Aのセル破損に伴う緊急退役処置 |
| NOAA-15 | 1998-030A | 1998年5月13日 | 137.620 MHz | 2025年8月19日 15:26 | 寿命末期技術試験の完了に伴う最終停止 |
まず2025年6月16日をもって気象予報機関向けの地上データ配信が公式に打ち切られ、その後、最後まで生き残っていた3機が順次シャットダウン。
2025年8月19日 15:26:07 UTC、NOAA-15の送信機(VTX-2)の停止をもって、地球上からNOAAのアナログ気象電波は完全に消滅した。
なぜ「電源を切る」必要があったのか?
「古い衛星でも、電波を垂れ流しておいてくれればホビー用途には使えるのに、なぜわざわざコマンドを送って止めるのか?」と思うかもしれない。私も思ったからGemini先生に聞いた。
これには「パッシベーション (Passivation: 不活性化)」という、現代の宇宙環境保全におけるシビアな理由があるらしい。
実は、POES衛星の同型機である NOAA-16 は2015年に、NOAA-17 は2021年に、退役後に軌道上で突如爆発を起こしている。それぞれ数百個以上の制御不能なスペースデブリを軌道上に撒き散らす大惨事となった。原因は、長年軌道上に放置された老朽バッテリーの熱暴走、および過充電保護回路の故障による蓄電セルの破裂だった。
そういった事態を防ぐために、米国政府の「軌道上デブリ低減標準指針(ODMSP)」に基づき、NOAA管制チームは各機に対して以下の不可逆的な受動化措置を実行した。
- 姿勢制御スラスタの残存燃料を全量噴射・排気
- バッテリーの完全放電
- 太陽光パネルと充電回路の物理的・不可逆的な切断
バッテリーが爆発しないよう、回路そのものが焼き切られたのだ。送信機への給電ラインも完全に開放されたため、今後これらの衛星から137MHzの電波が再送出される可能性は物理的にゼロである。
次世代機(JPSS)への移行と「Xバンド」の壁
「じゃあ、後継の新しいNOAA衛星を受信すればいいのでは」という疑問が湧く。現在主力として飛んでいるのは、JPSSシリーズと呼ばれる最新鋭機(NOAA-20、NOAA-21など)だ。
しかし、ここにもホビイストを阻む巨大な壁がある。新しい衛星は、137MHz(VHF帯)を完全に捨て去ってしまったのだ。
| 項目 | 従来世代(POES: NOAA-15, 18, 19) | 現行世代(JPSS: NOAA-20, NOAA-21) |
|---|---|---|
| 直接放送方式 | APT(アナログ画像伝送) | HRD(High Rate Data) |
| 中心周波数 | 137.100 〜 137.9125 MHz (VHF帯) | 7812.0 MHz (Xバンド / マイクロ波) |
| 変調方式 | AM副搬送波によるアナログFM | デジタルQPSK(CCSDS準拠) |
| データレート | 2ライン / 秒 | 15 Mbps 〜 25 Mbps |
| 必要な地上設備 | 100均メジャー+数千円のSDRドングル | 直径1.5〜2m級の自動追尾型パラボラアンテナ |
新型機に搭載されたセンサー(VIIRS等)のデータ量は膨大で、通信速度は25Mbpsに達する。帯域幅がわずか数十kHzしかない137MHz帯には物理的に収まりきらない。 そのため、一気にギガヘルツ帯のマイクロ波(Xバンド:約7.8GHz)へ移行してしまった。
こうなってくるともはや、ベランダから手持ちアンテナを空にかざして受かるレベルではない。モータ駆動の巨大パラボラアンテナと高価なダウンコンバータが必要となり、民生レベルでの受信ハードルは文字通り天文学的に跳ね上がってしまった。
現在、137MHz帯で生き残っている気象衛星は?
手作りアンテナで直接画像を受信できる最後に残されたルートが、ロシア連邦宇宙局(Roscosmos)が運用する Meteor-M(メテオールM)シリーズ である。
- 現役機: Meteor-M N2-3(2023年打上)、Meteor-M N2-4(2024年打上)
- 周波数:
137.100 MHzまたは137.900 MHz - 方式: LRPT(デジタルQPSK / 72kbps)
旧来のアナログAPTではなくデジタル変調だが、従来の137MHzアンテナがそのまま使え、SatDumpなどの現代的なSDRソフトを使えばNOAAを遥かに凌駕するフルカラーの高解像度地球写真が手に入る。
(※なお、ヨーロッパの気象衛星「MetOp」シリーズも極軌道を飛んでいるが、こちらは初号機打ち上げ直後に自機の赤外線センサー(HIRS)と137MHz送信アンテナが電磁干渉を起こす設計ミスが発覚し、137MHzの送信機は全機で永久停止されているため受信できない)。
現在、137MHz帯で地球の写真を降らせてくれる低軌道衛星は、実質的にロシアのMeteor-M(2-3号および2-4号)の2基しか地球上に存在しない。
歴史の黄昏
今回の迎撃作戦は、宇宙の墓標へアンテナを向ける空振りに終わった。最悪だ。
アメリカがコスト効率と次世代化の果てに民生用VHF電波を断絶した一方で、ロシアの衛星だけが今なお、137MHzのデジタル信号を垂れ流してくれている。そんなんだからアメリカは没落しつつあるのだ!
人類の戦犯にして世界的畜生イーロン・マスクを絶対に許すな
(という意見が英語圏だとちらほらあったが、そもそもこれらの衛星は完全に寿命を超えてたので技術的に妥当な処置らしい。一方でNOAA(アメリカ海洋大気庁)に圧力をかけてたというのもまた事実らしいので、真相はなんともというところではある。個人的にはイーロン・マスクが決定的に嫌いになりました。)
一部の情報は古くなっている可能性があります



