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2833 字
14 分
RTL-SDR受信環境改善のためのプリセレクタ自作
目次

最近、無性に無線趣味が再燃してきました。

改めて基礎から無線工学を勉強し直してみると、「なるほど、あれはこういう理屈だったのか!」とパズルのピースがハマるような面白さがあります。

理屈がわかると、実践したくなるものです。今回は学んだ理論を総動員して、自宅のSDR(ソフトウェアラジオ)受信環境の本格的な改善に挑んでみました。

前回の記事:

動機#

特に40m帯(7MHz付近のアマチュア無線バンド)を受信する際、RTL-SDRのRFゲインを20dB以上に設定すると、バンド内のあちこちに謎のお化け信号が大量発生します。どうやら近い周波数にいる中国からの強力なAMラジオが、何故か関係ない周波数帯に混ざってくるのです。

調べてみると、これは3次相互変調歪みと呼ばれる現象でした。強力な信号が隣に飛び込んできている状態でRF Gainを上げすぎると、ミキサやアンプの非線形性によってクリッピングを起こします。その結果、

2f1−f2および2f2−f12f_1 - f_2 \quad \text{および} \quad 2f_2 - f_1

といった位置に、本来そこには存在しないはずの偽の信号が生成されてしまうのです。強い中国短波ラジオは複数存在するため、これらの相互変調積も大量発生してしまいます。

RTL-SDRは広帯域を受信できる反面、入力段のフィルタがほぼ無防備です。これを解決するには、受信機の手前で目的外の強力な信号を物理的に叩き落とす「プリセレクタ」、要はバンドパスフィルタが大いに役立つらしいことがわかりました。

トランス結合並列共振型プリセレクタの自作#

並列共振回路を用いたパッシブなプリセレクタを製作しました。

回路構成と部品選定#

基本は LL(コイル)と CC(可変コンデンサ)を並列に接続したタンク回路です。並列共振回路は、共振周波数においてインピーダンスが極大(理論上は無限大)になります。これを信号ラインに対して適切に配置し、目的のバンドだけを低損失で通過させることで、外れた周波数(特に強力な中波〜短波放送帯)をごっそり減衰させることができるらしい。

Gemini先生にお伺いを立てながら、以下のような回路を作ることにしました(合ってるか自信がない)。

回路図
回路図

図内の266pFコンデンサは実際にはバリコンであり、5pFから266pFまで可変としています。

また、この図には5つのコイルがありますが、実際にはこれらは単一のトロイダルコアに巻き付けます。トロイダルコアにはHF帯の広域で使い勝手が良い T68-2(赤色)を使用。0.4mmのUEWを22回巻くと2.8uHになるらしい。入出力からはそれぞれ3回巻します。

直感的に理解すると#

共振タンクはブランコのようなものです。

ブランコを押してやる人が入力、その反対側でブランコに蹴り飛ばされる人が出力です。ブランコの固有振動に一致する周波数でブランコを押してやれば、ブランコが大きく揺れて、蹴り飛ばす力も大きくなります。それ以外の周波数の振動はブランコを介して効率よく伝えることが出来ず、出力側にもほとんど現れません。

つまり、バンドパスフィルタ(BPF)になります。

ブランコではその固有振動数を変えることは困難ですが、共振タンク回路ではコンデンサの総容量を変えることで、ある程度自在に共振周波数を調整することができます。大きな容量のコンデンサを並列に追加して大雑把に共振周波数を設定した後、バリコンで微調整してやれば、だいたい任意の周波数で共振させることが可能になる…というわけです。

また、共振タンクにはトランスを介して接続するというのもポイントです。ブランコで言えば、大人が両手でがっしりとブランコを掴んでしまうと、せっかくの揺れ(共振)がすぐに止まってしまいます(インピーダンス整合が取れていない状態)。

そこでトランスを使い、巻き数比(3回:22回)で「指先でチョンと軽く突いて揺らし、反対側も指先で触れて揺れを受け取る」ようにしてあげます。こうすることで、ブランコ本来の鋭い揺れ(高いQ値=切れ味の良いフィルタ特性)を維持したまま、効率よく信号を受け渡せるというわけです。

ちなみに、この仕組みには他にも色々メリットがあるようです。直流電流から見るとアンテナはトランスのコイルを通してGNDへ完全にショートしているため、静電気が溜まるのを回避できます。RTL-SDRを付け外しする時に、アンテナに溜まった静電気がバチッと流れてRTL-SDRを破壊するケースがあり、それを回避できるとのこと。また、この回路は事実上のアンテナカプラとしても機能するので、インピーダンス整合を取りやすくなるとか。

理論上のカバー範囲を計算してみる#

L=2.8 μHL = 2.8\,\mu\text{H}、バリコンの容量が 5∼266 pF5 \sim 266\,\text{pF} の場合、スイッチで固定コンデンサ(2.2 nF2.2\,\text{nF}、470 pF470\,\text{pF})を足し合わせることで、以下のようにHF帯の主要バンドを幅広くカバーできます。

共振周波数の公式: f=12πLCf = \frac{1}{2\pi \sqrt{LC}}

  • バリコンのみ(5∼266 pF5 \sim 266\,\text{pF}) →\rightarrow 約 5.8 MHz∼42 MHz5.8\,\text{MHz} \sim 42\,\text{MHz} (40m帯の7MHzから、20m/15m/10m帯までカバー)
  • バリコン + 470 pF470\,\text{pF}(475∼736 pF475 \sim 736\,\text{pF}) →\rightarrow 約 3.5 MHz∼4.4 MHz3.5\,\text{MHz} \sim 4.4\,\text{MHz} (80m帯の3.5MHz付近にジャスト)
  • バリコン + 2.2 nF2.2\,\text{nF}(2.205∼2.466 nF2.205 \sim 2.466\,\text{nF}) →\rightarrow 約 1.9 MHz∼2.0 MHz1.9\,\text{MHz} \sim 2.0\,\text{MHz} (160m帯の1.9MHz付近をカバー)

スイッチのON/OFFの組み合わせ次第で、主要なアマチュア無線バンドはほぼ連続して取れる計算です。ちなみにこれらの計算は全部Gemini先生にやってもらいました。

製作#

秋葉原で電子部品を調達。ケースにはESP32用のプラスチックケースを流用し、内部にトロイダルコアやバリコンを配置してプリセレクタを組み立てました。バリコンが一番高かったものの、コストは1000円以下で収まりました。

組み立て中
組み立て中

トロイダルコア、コンデンサとスイッチが載った基板、バリコンをケース内に配置。

外からノイズが入ってこないよう、ケースの内側をアルミホイルで覆い、共通GNDと接続。アルミホイルにはハンダが乗らないので、以前に100Vのライトを解体して入手した太い銅線を共通GNDとし、その一部にアルミホイルを巻き付けてペンチで圧着させることで導通を確保しました。

(将来の自分のための注意: 一部の銅線はかなり短いので、ケースを80度以上開けようとすると線がちぎれる可能性がある。)

完成
完成

ついでに、NanoVNAをポチりました。

検証#

完成したプリセレクタをNanoVNAに接続して動作を確認しました。まずは通過特性S21を確認します。

NanoVNAによる測定その1
NanoVNAによる測定その1

しっかり、特定の周波数でのみS21 LOGMAG (信号損失の割合)が-2dB程度、それ以外では急落していくような山を描いています。すごい。

次に、アンテナとNanoVNAの間にプリセレクタを挿入してSWRを確認します。

NanoVNAによる測定その2
NanoVNAによる測定その2

バリコンを調整すると、しっかり聞きたい周波数ジャストでSWRが最小1.25くらいにできました。

そして実際にアンテナとRTL-SDRの間にプリセレクタを挿入して受信性能を確認しました。

バリコンの容量を調整すると、見事にノイズフロアの山が動いていきます。7MHz帯ではちょっと裾野が広すぎる感じはあるものの、AMラジオがいない6.7MHzくらいにピークを持っていけば、RF Gainをこれまでより10dBくらい増やしても相互変調が発生しなくなりました。

感想#

正直半信半疑というか、理屈上そうだとしても実際そうなるとは限らないだろうと思いながら組み立ててみたのですが、期待をはるかに上回る効果が得られました。まさか高校物理の教科書に載っていたLC共振回路の知識が、実際にここまで役立つとは。

理論に裏打ちされた科学なんだから当然と言えば当然なんですが、高周波の世界は全体的にThe 黒魔術感があるので、本当に上手くいくとは思いませんでした。

おまけ: アンテナの物理配置を見直す#

以前の構成は極めてシンプルで、「約20mのランダムワイヤアンテナ → 9:1 Un-Un → RTL-SDR」 というシステムです。実はプリセレクタを作る前に、入力の要であるアンテナ本体の改善から着手していました。が、このアンテナの改善により相互変調の影響がより深刻になったため、プリセレクタを作ったという経緯です。

建物(鉄骨)との容量結合#

建物の外壁とアンテナ線がわずか1mの距離で並行に走っています。これでも、以前は30cmくらいだったところから改善したつもりだったのですが、波長の長いHF帯の電波から見れば、1mの隙間などほぼゼロ距離のようなもの。

アンテナと壁内部の鉄骨がコンデンサを形成(容量結合)してしまい、せっかくワイヤーが捉えた微弱な高周波エネルギーが建物のグランドへ吸い取られてしまいます。

壁からの距離を離せば離すほど、結合容量は小さくなります。

より長い支柱をベランダから約45度の角度で突き出すことで、ワイヤーを外壁から約3mの位置まで隔離することに成功しました。その結果受信感度が大幅に改善したため、次は余計な信号を除去するBPFを作らねば、となって記事冒頭に至ります。

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