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5316 字
27 分
METEOR M2-4からの衛星画像をRTL-SDRと手作り八木アンテナで受信した
目次

背景#

最近原神をやりまくっているせいで、この世界の空も偽物かもしれないと心配になった。空に巨大な人工ドームが無いことを証明するにはどうすればいいだろうか?

シューマン共鳴を検出する#

ドームがあった場合、本来の8Hz程度のシューマン共鳴は検出できず、代わりにドームのサイズに応じた遥かに高い周波数の共鳴が検出されるだろう。

しかし、10Hzで共振するアンテナなんて超巨大になってしまうので、個人で実現するのはかなり難しそう。

水素線を検出する#

ドームがあった場合、星もドームに映された偽物ということになる。仮にドームの外に本物の宇宙と水素線があったとしても、ドームがそれを遮ってしまうだろう。つまり、水素線を検出すれば、空にドームが無いことを証明できる。

しかし、信号は極めて微弱らしいので、いろいろと追加の機器や処理が必要になりそう。水素線を検出できたとしても、何かそこに情報が乗っているわけではないから、やや面白さには欠ける。

衛星からの信号を受信する#

ドームがあった場合、宇宙空間からの電波はドームによって遮られてしまう。つまり、衛星からの信号を受信できれば、空にドームが無いことを証明できる。もしかすると世界の管理者がドーム上に人工的な衛星信号を配置してたりするかもしれないが、それは無視する。

幸い、衛星通信には135Mhz付近の周波数が使われている。周囲にはアマチュア無線バンドやエアバンドがあるので、この付近の周波数を受信できるアンテナを用意すれば、ある程度つぶしが効くのも嬉しい。

ということで、METEOR-M2 4からの衛星画像を手作り八木アンテナで受信しよう!

アンテナの選定と設計#

ターゲットはロシアの現役気象衛星「METEOR-M2 4」。周波数は 137.100MHz/137.900MHz(VHF帯、波長約2.18m)。

都心の劣悪な電波環境で微弱な宇宙信号を拾うためには、ある程度の指向性が必要になるかもしれない。そこで、3エレメント八木・宇田アンテナを自作することにした。

主な材料#

Gemini先生と相談しながら、すべて身の回りのものと100均素材で構成した。

材料は以下の通り。

  • 骨組み: 70cm x 5mm 程度のプラスチック製パイプx4本
    • ゴミ捨て場で偶然拾った。おそらく、夏休みの自由研究用のアサガオの支柱だったのだろう。
    • これが無ければ塩ビパイプを買いに行く羽目になっていた。超ラッキー。
  • エレメント(素子): ダイソーの 5m 金属メジャー
    • いわゆるテープメジャーダイポールアンテナを作るため。
  • 給電部: 銅箔テープ + 同軸ケーブル + 熱収縮チューブ
    • 同軸ケーブルには、秋葉原で10m100円(!)で入手した75Ωのものを使用。もちろんインピーダンスの問題があるが、SWR=1.5なら受信する分には問題ないと判断。

設計寸法#

ネット上の八木・宇田アンテナ計算機を使い、以下の寸法が得られた。

【設計寸法(137.0MHz基準 / エレメント等価径15mm換算)】
[ 導向器 (Director) ] :約 97.9 cm
│ 間隔 34 cm
[ 放射器 (Driven) ] :約 104.7 cm(左右各51.9cm + 隙間1cm)
│ 間隔 34 cm
[ 反射器 (Reflector)] :約 109.3 cm

半波長ダイポールアンテナを作る#

八木・宇田アンテナの基本構造は、1本の放射器(Driven)と、それを挟む反射器(Reflector)および導向器(Director)から成る。放射器はつまり半波長ダイポールアンテナそのものなので、まずはこれを作る。

給電部の良い固定方法に悩んでいたが、調べてみたら天才的な方法が見つかった。メジャーを追加で切り出して絶縁し、左右のエレメントを挟んで熱収縮チューブで固定するという方法だ。

これならば、余計な材料も空間も不要になる。その上、メジャーの張りを維持するのに必要なU字型の断面構造も損なわれない。防水もバッチリ。そして収納も容易。本当に天才的。

同軸ケーブルの先端にコネクタを取り付ける#

秋月電子のSMAコネクター(メス)を無理やり取り付けた。1個30円。

同軸ケーブルを剥いて、芯線をコイル状にしてコネクタの芯線に巻き付け、ハンダ付け。その後、シールドを2本に撚ってコネクタの穴に通し、ハンダ付け。あとは周囲を絶縁テープと熱収縮チューブで保護して完成。

実はこれはマグネティックループアンテナの端の処理だったのだが、MLAは完成したものの結果がイマイチだったので、途中で切断して流用した。

限界コネクタ。なぜ普通のSMA端子は妙に高いのか。
限界コネクタ。なぜ普通のSMA端子は妙に高いのか。

テープメジャー半波長ダイポールアンテナの作成#

次に、半波長ダイポールアンテナをテープメジャーで作成する。

なお、八木アンテナにするとわずかに共振周波数が変わるらしい。なので、上述のアンテナ計算機で得られた寸法通りに作る。137Mhzの半波長ダイポールアンテナそのものとはわずかに寸法が変わることに注意。

百均テープメジャーを用意し、上述の設計寸法に従って切り出す。また給電部保護用の10cmの断片を2枚切り出す。スチールを切断するため、通常のハサミを使うと耐久度を大きく下げてしまう。お気に入りのハサミは使うべきではなさそう。

切り口はかなり鋭利なので、いずれも角を丸めておく。給電部保護用の10cmの断片は、絶縁テープで完全に覆う。

メジャーの角をカットするときは、ゴミ箱の中で行うこと。鋭利な断片が飛んでいきます。
メジャーの角をカットするときは、ゴミ箱の中で行うこと。鋭利な断片が飛んでいきます。

給電部を紙やすりでゴシゴシ削ってメジャーの塗料を剥がし、金属部分を露出させる。その上に銅箔テープを貼り、ハンダが乗りやすいようにした。銅箔テープはもしかしたら不要かもしれないが、最近買ってハンダの乗りやすさに感動したので、ここぞとばかりに使ってみた。

同軸ケーブルの先端の外皮を15mm剥き、シールドを1本に束ねて折りたたむ。内部絶縁体を10mm剥き、芯線を露出させる。まずは芯線がエレメントとほぼ真っすぐ接続されるように配置してハンダ付けし、その後シールドをもう片方のエレメントにハンダ付けするとやりやすかった。この際、エレメント間の距離は8mm程度とした。

給電部
給電部

給電部どまんなかを絶縁テープで覆ったうえで、熱収縮チューブを被せて加熱して固定。同軸ケーブルはシールド側のエレメントから出てくる形。

完成した給電部
完成した給電部

nanoVNAによる単体ダイポールの特性測定#

給電部ができたので、まずはこの単体ダイポールが狙い通りの周波数で共振しているか、NanoVNAで確認してみる。

測定環境として周囲の金属や床から浮かせた状態でS11を測定したところ、以下の結果が出た。

  • マーカー:137.500 MHz
  • SWR:1.555
  • インピーダンス:50.96 + j22.43 Ω

単体ダイポールの特性測定結果
単体ダイポールの特性測定結果

SWR=1.5って大丈夫なのかなとちょっと心配になったが、八木アンテナ化すると導向器と反射器の相互結合によって共振周波数が動くらしい。まだエレメントを切り詰めず、このまま八木アンテナの骨組みへ組み込むことにした。

3エレ八木アンテナを作る#

放射器の動作が確認できたので、反射器(Reflector)と導向器(Director)を取り付けて3エレメント八木アンテナへと拡張する。

朝顔ポール2本の両端をテープで巻いて、強度を確保。寸法上ちょうど放射器や反射器が両端に乗るはずなので、摩擦によってその固定をしっかりさせる狙いもある。

寸法上の放射器、反射器、導向器の位置に、メジャーの幅(16mmよりちょっと狭いくらい)の間隔で結束バンドを2本結ぶ。これは、メジャーの前後方向の移動を妨げつつ、この後強く縛ってもメジャーの強度のために必要なU字型を崩さないためのレールとする狙いがある。

切り出したメジャーを、このレールの上に取り付け、結束バンドでバッテンになるように結んで固定。この時、メジャーの谷が骨組み側に来るようにした。

これを放射器、反射器、導向器のすべてに対して行い、八木アンテナが完成した。

(なお、手で持つ場所が一切ないのは流石に不便だったので、後から追加でポール2本をテープで固定して持ち手を作った。持ち手50cm程度、反射器から導向器が70cmの寸法。)

完成した3エレ八木アンテナ
完成した3エレ八木アンテナ

この状態で再びNanoVNAを接続し、導向器の位置を前後に数ミリ微調整した。

八木アンテナの特性測定結果
八木アンテナの特性測定結果

  • ピーク: 135.200 MHz SWR 1.173 (Z = 58.3 - j2.5 Ω)
  • 目標: 137.200 MHz SWR 1.566 (Z = 32.6 - j5.6 Ω)

ディップの底でSWR 1.17というかなりびっくりなマッチングを叩き出した。本番の137.9MHz付近でもSWR 1.5台に収まっており、これは受信電力の95%以上がそのままSDRに通る計算になる。

(でも同軸ケーブルが75Ωだから、そもそも50Ωでのマッチングが完璧でも意味がなかったような…)

ここから更にエレメントを切り詰めて微調整しようかと思ったが、現時点で既に十分であり、ここから手を加えて大惨事を招くリスクは取りたくなかったし、ハサミをこれ以上ボロボロにしたくなかったので、このまま完成とした。

総製作費は300円程度。

深夜の試運転と「ビルの谷間」の壁#

日曜日の17時に思い立ってメジャーを買い、アンテナが完成したのが深夜3時。早速バルコニーに出てSDR++を起動してみたが、驚くほど静まり返っている。壊れているのかと思ったが、よく考えたら深夜3時に飛んでいる国内線などない。

Flightradar24を見ながら待つこと数十分。千葉県銚子沖の太平洋上を飛行する国際線貨物便を見つけ、東京コントロール(関東東セクター:133.600MHz AM)に耳を澄ませると……英語で交信するパイロットの声が微かに聞こえた!

メジャーの束が、本当に空の電波を捉えちゃったのだ!

METEOR-M2からの電波を受信する#

あとはこのアンテナを実運用に乗せるだけだ。極めて幸運なことに、ちょうど ロシアの気象衛星 METEOR-M2 4 が、10月5日(月曜日) 13時47分〜14時02分に東京の空を最大仰角73度で通過することがわかった。

ほぼ真上を通る絶好のコースだが、ビル街谷底にある自室バルコニーでは空が狭すぎる。

そこで、「マンション最上階、屋上に通じる非常階段の踊り場」を使うことにした。ここなら海抜30m以上、周囲のビル群の屋根とほぼ同じ高さまで一気に抜け出せる。

準備#

まずは衛星追跡用iOSアプリを入手した。App Storeには似たようなアプリがいくつかあったが、無料で、METEOR-M2を追跡可能で、AR機能があるものとして「Satellite Chaser」を使った。もっと良いのがあるかもしれないが、この時点で既にT-1時間くらいしか無かったので吟味してる場合じゃなかった。

次に、SDR++の設定を整える。これまでFMやSSBを普通に聞くだけだったので手こずったが、以下の設定が必要だった(Gemini先生まとめ)。

  1. 2波同時待ち受け設定(超重要)
    • Center Frequency(中心周波数):137.500 MHz
    • Sample Rate(サンプリングレート):1.024 MSPS
    • Meteor-M2 4は、日によって「137.100MHz」か「137.900MHz」のどちらかで送信してくる。サンプリングレートを1.024MSPSにし、その真ん中の137.500MHzを中心にしておけば、137.0MHz〜138.0MHzの全帯域がすっぽり画面に収まる。これでどちらから電波が来ても100%取りこぼさない。
  2. ゲイン設定
    • RF Gain:32〜36 dB 程度
    • 昼間の都会はノイズフロアが高い。最大ゲインにすると内部でサチュレーションを起こして微弱信号が潰れてしまうため、あえて少し絞るのがコツらしい。
  3. 録音モジュール
    • メニューの「Recorder」を開き、Record Modeを必ず「Baseband(IQ生録音)」 にする。(※「Audio」を選ぶと音声帯域以外がバッサリ切り捨てられて画像データが死ぬので絶対にNG)。
    • フォーマットは WAV (Int16) を指定。保存先をデスクトップにして準備完了。

Operation Arcadia#

ノートPC、RTL-SDR、自作八木アンテナ、PCを置くためのキャンピング椅子、雨が振ってきた時用のタオルを抱えて非常階段最上部へ。急いで準備を整えた。準備完了とほぼ同時に、iPhoneのAR画面で衛星が地平線から昇ってきた。

AR表示を信じてアンテナを掲げていると、ウォーターフォール上でだんだんと137.9MHzに山が現れだした。衛星からの信号だ!

帰ってから録音データを再生して再現したウォーターフォール
帰ってから録音データを再生して再現したウォーターフォール

あとは衛星が沈むまでの15分間、右手にスマホ、左手にアンテナを持って、ひたすら衛星を追いかけ続けた。この時、途中で一度ノートPCがスリープに入ってしまった。設定でオフにしておくべきだった。

AR表示を信じてアンテナを掲げる
AR表示を信じてアンテナを掲げる

期待通り、信号強度は衛星が天頂に到達したあたりで最大となり、そこからだんだんと弱くなっていって、地平線に沈むと信号は完全に消滅した。やはり、これが本物で間違いない!

デコード#

録音した巨大なWAVファイル(約2.7GB)を抱えて部屋に戻った。この際、エレベータに他の住人が乗ってきて、やや気まずい思いをした。アンテナはしっかり格納してからエレベータに乗るべきだったかもしれない。

いよいよ画像の復元作業(現像)に入る。デコードにはオープンソースの衛星処理ソフトウェア「SatDump (v1.2.2)」を使用した。

ここですぐに画像が出るかと思いきや、デジタル通信ならではのパラメータ設定が想像以上にシビアだった。適当にポチッと押すだけでは何も出ない。

試行錯誤の末、最終的に画像が出た設定が以下。

SatDumpのデコード設定画面
SatDumpのデコード設定画面

画面に並ぶ呪文のようなパラメータたちだが、それぞれにちゃんと重要な物理的・数学的意味がある。

各設定パラメータの正体#

以下Geminiまとめ。

  1. Pipeline:METEOR M2-x LRPT 72k
    • 意味:復調パイプラインの選択
    • 「80k」ではなく「72k」。古い世代用の「METEOR M2」ではなく、新型衛星対応の「M2-x」を選ぶのも大事。
  2. Input File:...baseband_137500000Hz_13-49-46_05-10-2026.wav
    • 意味:録音した生データファイル
    • ファイル名を見れば一目瞭然。「中心周波数137.5MHz、2026年10月5日 13時49分46秒開始」の生ログである。階段を駆け上がって準備した激闘のタイムスタンプがそのまま刻まれている。
  3. Input Level & Baseband Format:baseband / cs16
    • 意味:生波形データと量子化フォーマットの指定
    • 生のIQ波形である baseband を選び、フォーマットはSDR++で録音した cs16(Complex Signed 16-bit:複素数・符号付き16bit)を指定する。
  4. Samplerate:1.024 Msps
    • 意味:サンプリングレートの申告
    • 録音時と同じ「1秒あたり102.4万サンプル」を指定。これが一致していないと、時間の進み方が狂って変調周波数が合わなくなる。
  5. DC Blocking:チェック(ON)
    • 意味:直流オフセットノイズの除去
    • RTL-SDRのようなダイレクトコンバージョン受信機は、構造上どうしても中心周波数(137.500MHz)のド真ん中に「ツンと立った不要な直流スパイクノイズ(DCオフセット)」が発生してしまう。これにチェックを入れてソフトウェア的に打ち消しておく。
  6. IQ Swap:チェック(ON)(超重要)
    • 意味:複素数信号(I相とQ相)の入れ替え
    • 実部(I)と虚部(Q)の軸が逆になっていると、周波数の「プラスとマイナス」が鏡のように反転してしまう。オフセットを合わせたのにどうしても復調できないときは、大体このIQ Swapにチェックを入れると嘘のように解決する。デジタル無線の隠れた罠。これに気づくのに一番時間がかかった。
  7. Frequency Shift:400 kHz
    • 意味:中心周波数からのズレ補正
    • 137.500MHzを中心にして録音したため、目的の137.900MHzは「+400kHz」右側にいる。ここを 0 Hz のままにしていると、何もない空き地を探索して一瞬でエラー終了する。きっちり 400 kHz と指定して電波の山を狙い撃つ。
  8. Use RS Check:チェック(ON)
    • 意味:リード・ソロモン符号による誤り訂正
    • 宇宙通信の守護神。パケットに乗っている誤り訂正コード(Reed-Solomon)を使って、受信中にノイズで化けたビットを数学的に修復する。電波が多少弱くても破綻せずに画像が繋がるのはこれのおかげ。
  9. Fill Missing Data:チェックなし(OFF)
    • 意味:データ欠損部分を補間するかどうか
    • チェックを入れるとデータが抜けた行を適当に埋めてくれるらしいが、今回はあえてOFFにした。

結果#

上記の設定をして実行すると、画面のコンスタレーションがカチッと綺麗な正方形の4つの点へと収束した。というか二陸技とかで出てくる謎の図ってこれだったのか!

コンスタレーション
コンスタレーション

処理完了後、保存先フォルダを開くとこれが出来上がっていた。

結果
結果

実際には上下逆さまだったが180度回転させている。衛星は進行方向に向かってカメラをスキャンしていくため、南から北へ飛ぶと、写真が「日本列島の南から順にスキャンされて北へ進む」ことになり、北を上にする地図で見ると自然と180度逆さまになる、ということらしい。

一部データ欠損があるものの、ほぼ完璧に画像が取得できている。雲の立体感もすごい。画像下部に見切れているのは台風27号。

上空820kmの宇宙空間から照射された電波を、自分で作ったアンテナとRTL-SDRで直接キャッチした、世界に1枚しかない(?)地球の生写真である。ここまで上手くいくとは思っていなかったので、流石に声が出た。

まとめ#

東京の上空には偽りの空はなく、宇宙空間と気象衛星は実在した。仮に偽りの空があったとしても、世界の管理者はかなり込み入ったことをしているようだ。

テイワットには何らかの符号化あるいは変調方式が存在するらしい
テイワットには何らかの符号化あるいは変調方式が存在するらしい

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