私は最近、ポーカーにハマっている。 日本で一般的にポーカーといえば 5 枚もらって何枚か交換して勝負するタイプのポーカーだと思うが、私がハマっているのはテキサス・ホールデムという、手札 2 枚と全員共通のカード 5 枚を組み合わせて勝負するものだ。
先日、友人に連れられて初めてポーカーのトーナメントに参加した。私にとってあれは、まさに多くの人に伝えたい冒険だった。
ヒーローズ・ジャーニーの構造を使って語ってみようじゃないか。
最終的な成果
私は退屈な日々を送っていた。今日も課題をこなし、ご飯を食べ、床につく。その繰り返しだ。
そんな中、友人からポーカーにいかないかという誘いを受けた。 今日は全国大会につながるサテライトイベントが催されるらしい。 2 位以内に入賞すれば、次の大会へのチケットが得られる。
しかし参加費は 5000 円だという。決して安い金額ではない。 それに、最近ポーカーはあまりやっていない。 猛者たちが集まるだろうそんなイベントで、とても入賞圏内に到達できるとは思えない。
高いお金を払って序盤で脱落なんてのはごめんだ。私は断ろうとした。
友人は私に、トナメのアドバイスをくれた。
- 序盤はタイトに。
- 10BB を切ったらルーズなオールイン or フォールド戦略。
- CB は打ちすぎないこと。
これさえ守っていれば即死することは無いという。私は覚悟を決め、アミューズメントカジノへ向かった。
ゲームが始まった。 友人のアドバイスに従ってプレイしていたので、確かにチップが大きく減ることは無かった。
しかし大きく増えることもなく、気づけばスタックは 10BB を切っていた。
ファイナルテーブルまであと一人。 プリフロップで友人がオールインし、他の全員がフォールドして自分のアクションが回ってきた。
私は J3o でコールした。友人は KQs だった。 おしまいかと思われたが、ボードに J と 3 が落ち、私がツーペアを完成させ勝利した。
ドロップアウトした友人の声援を背に、私はファイナルテーブルに移動した。 独特の緊張感と高揚感に、心臓が高鳴る。
レベルの上昇度合いは加速し、私は何度も 10BB 以下までスタックを減らしたが、まだ生き残っている。
残りプレイヤーは 3 人。あと一人脱落したら入賞確定だ。
フロップで 3BB レイズ。一人乗ってきて、アウトポジションのこちらから CB を打つ。 緊張状態が長続きしたためかもしれない。 あろうことか私は、友人からのアドバイスをすっかり忘れていた。
相手は 3 倍額のレイズを返してきた。
実はさっきも同じことがあった。 その時は、こちらがフォールドすると、ハンドを見せつけながらブラフだったと嘲笑されたのだ。
私は腹が立っていた。ここで奴をとっちめなければ!
一世一代のオールイン勝負に出た。しかし運もここまでだった。私はついに敗北した。
結局、私はあと一歩のところで勝利を逃した。 最後の 1 ハンド、あそこで冷静になっていれば、入賞は夢ではなかった。 このゲームは感情的になったらおしまいなのだということが、身にしみてわかった。
それにしても、あの高揚感は忘れがたい。本当に楽しい一夜だった。
ヒーローズ・ジャーニーのおさらい
ヒーローズ・ジャーニーとは、超ざっくり言うと「物語はこんな感じで作るといいよ」というガイドラインである。
詳細は
を見てほしい。
ヒーローズ・ジャーニーは 12 のステージで構成される。
# | ステージ | 概要 |
---|---|---|
1 | 日常世界 | 主人公たちの日常を示す。賭けの対象を提示する。 |
2 | 冒険への誘い | 原状の問題を示唆し、冒険の賭けをつり上げる。 |
3 | 冒険の拒否 | 冒険の危険性を読者に提示する。 |
4 | 師との出会い | 冒険の準備をさせる。助言、魔法の道具の付与。 |
5 | 最初の戸口の通過 | 実際に冒険が始まる。日常世界の帰還限界点を超える。 |
6 | 試練、仲間、敵 | 特別な世界のルールを学ぶ。 |
7 | 最も危険な場所への接近 | 最深部の洞穴に入る準備や計画を行う。 |
8 | 最大の苦難 | 最大の恐怖に立ち向かう。英雄の死と再生。自我の超越。イニシエーション。 |
9 | 報酬 | 目的としていた霊薬、探し人、知識等の獲得。 |
10 | 帰路 | 日常世界へ帰ろうとする。奪取した報酬の持ち主に追われることも。 |
11 | 復活 | 死と再生の再演。帰還前に新たな存在に生まれ変わり身を清めなければならない。 |
12 | 宝を持っての帰還 | 報酬を日常世界に持ち帰り、共同体に役立てる。 |
ただし、これはあくまでガイドラインなので、全てのステージが存在している必要も、この順番通りに並んでいる必要もない。
発生した事実
次に、一旦ヒーローズ・ジャーニーのことは忘れて何が起きたかを振り返ってみる。 あとから削ぎ落とすだろうから、思いつく限り並べてみる。
- 経緯
- 1 年前、私は友人 A にテキサス・ホールデムを教わった。これが私とポーカーの出会いだ。
- 友人 A は勝利するための様々な知識を与えてくれた。
- ある日、友人 A は友人 B と共に私をトナメに誘った。
- トナメ参加費は 5000 円近く、正直かなり尻込みした。行くとは言ったものの、やはりやめようかとすら思った。
- 2 位以内に入賞すれば、全国大会へのチケットが獲得できた。
- しかし自分はとてもじゃないが優勝はできないと思っていた。せっかく払った参加費を無駄にしないため、少しでも長く生き残ることが目標だった。
- そんなやる気の無さだったので、アドオン(追加でお金を払って所持チップ倍額で開始できる)はしなかった。
- 1 年前、私は友人 A にテキサス・ホールデムを教わった。これが私とポーカーの出会いだ。
- プレイ開始
- 私は超タイトにプレイした。SB や BB じゃない限り、ハンドに 9 以下のカードがあれば常にフォールドした。
- これはもちろん、中途半端な強さで突撃してチップを失いたくなかったから。
- フロップ以降で、自分が勝ってるか確証が持てない状況が一番アクションが難しく、初心者とそうでない人との実力差が出やすい。そのような展開は避けたかった。
- あまりにもタイトにプレイしすぎたので、当然 SB や BB で場代を一方的に徴収され続けた。
- しかしカード運に恵まれ、ギリギリ 10BB 以上のスタックを維持し続けた。
- ファイナルテーブル進出まであと 1 人という状況で、友人 A とのオールイン勝負に勝った。
- ついにスタックは 10BB を切り始めた。私はハンドレンジを一気に緩くし、オールイン or フォールド戦略に切り替えた。
- 引き続きカード運には恵まれている。
- しかし、つり上がっていく BB と勝利への重圧により、私はかなり緊張していた。
- プレイヤー C に禍根の残る負け方をした。
- これが後々致命傷となる。
- 残り 4 人の状況で、友人 B とのオールイン勝負に勝つ。
- 実のところ、とてもオールインできるハンドではなかった。
- もはや私は重圧に耐えきれなかったのだ。
- しかしあまりにも運が良く、その勝負にも勝ってしまった。
- 残り 3 人。私の精神も脳も限界を超えており、チップの計算もおぼつかない状態だった。
- ここでプレイヤー C とのオールイン勝負に敗北する。
- 合理的に考えて、オールインしてよい状況では全く無かった。
- しかし先程の禍根の残る負け方が脳裏をよぎり、感情的にプレイしてしまった。
- 結果は 3 位に終わり、あと一歩のところで入賞を逃した。
- 私は超タイトにプレイした。SB や BB じゃない限り、ハンドに 9 以下のカードがあれば常にフォールドした。
- エピローグ
- 友人たちは私を慰め、称賛してくれた。
- 私はフラフラになりながら帰宅し、悔しさのあまり絶叫した。
- ちゃんと布団を口に当て、ミュートした上で大声を出した。
- ここまで心を動かされたのは久しぶりだった。自分の感情的な側面に気づき、我ながらとても驚いた。
テーマを決める
ご覧の通り、私は勝利による<宝を持っての帰還>をすることができなかった。
この場合どうすればよいだろうか?ボグラーによれば、
悲劇の<英雄>は、自分の悲劇的な欠点によって死んだり打ち負かされたりする。それでもその体験から学べることはあり、持ち帰れる<宝>もある。
<英雄>がその体験をくぐりぬけてきたことで、つらい思いはしたが賢明になれたと認めることにより、物語が閉じる感覚が生まれる。<英雄>が得た<宝>は苦い薬だったが、おかげで同じ間違いを犯さずに済むし、<英雄>の痛みは、同じ道を選んではならないという、観客への適切な警告ともなる。
- クリストファー・ボグラー、ライターズジャーニー P327
という。つまり、英雄は何らかの学びを宝として持ち帰っている必要がある。
私の場合、
ここまで心を動かされたのは久しぶりだった。自分の感情的な側面に気づき、我ながらとても驚いた。
が教訓にあたるだろう。もう少し掘り下げると、
- 感情的になって勝負をしてはいけないことを学んだ。
- 自分がポーカーにここまで熱くなれるということに気づいた。
というのが、今回得た宝だ。
日常の世界を逆算する
持ち帰った<宝>が決まった。もちろん、物語の開始時点でこの宝が日常世界にあってはならない。
つまり、私の日常世界は
- 自分は合理的に行動できていると思いこんでいて、感情がもたらす愚行の危険性を軽視していた。
- 熱くなれるものが無かった。
ということになる。
ヒーローズ・ジャーニーを用いた再構築
以上の考察をもとに、ヒーローズ・ジャーニーの流れに沿うようにイベントを割り当てていく。 些末な要素は、現実を捻じ曲げてシンプルにした。
日常世界
私は退屈な日々を送っていた。今日も課題をこなし、ご飯を食べ、床につく。その繰り返しだ。
物語のテーマを伝える。 ちなみに自分はそこまで寂しい人間ではない…はずだ。
冒険への誘い
そんな中、友人からポーカーにいかないかという誘いを受けた。今日は全国大会につながるサテライトイベントが催されるらしい。2 位以内に入賞すれば、次の大会へのチケットが得られる。
賭け金を吊り上げる。これから行くイベントは結構ガチなやつなのだ。
冒険の拒否
しかし参加費は 5000 円だという。決して安い金額ではない。それに、最近ポーカーはあまりやっていない。猛者たちが集まるだろうそんなイベントで、とても入賞圏内に到達できるとは思えない。
高いお金を払って序盤で脱落なんてのはごめんだ。私は断ろうとした。
冒険の危険性を読者に伝える。
師との出会い
友人は私に、トナメのアドバイスをくれた。
- 序盤はタイトに。
- 10BB を切ったらルーズなオールイン or フォールド戦略。
- CB は打ちすぎないこと。
冒険の準備をさせ、戸口の通過を後押しする。
最初の戸口の通過
これさえ守っていれば即死することは無いという。私は覚悟を決め、アミューズメントカジノへ向かった。
文字通り、アミュカジの戸口を通過した。
試練、仲間、敵
ゲームが始まった。友人のアドバイスに従ってプレイしていたので、確かにチップが大きく減ることは無かった。
しかし大きく増えることもなく、気づけばスタックは 10BB を切っていた。
たぶんここでいろんなハンドを紹介すると重厚長大な物語になるのだろう。今回はそういう趣旨じゃないのであっという間に危機に陥ってもらう。
最も危険な場所への接近
ファイナルテーブルまであと一人。プリフロップで友人がオールインし、他の全員がフォールドして自分のアクションが回ってきた。
ポーカーにおける危機といえばやはりオールイン。
最大の苦難
私は J3o でコールした。友人は KQs だった。おしまいかと思われたが、ボードに J と 3 が落ち、私がツーペアを完成させ勝利した。
ちなみにこの状況だと、プリフロップでの勝率は2割程度らしい。このハンドは友人Bとの一戦だが、あえて友人2人との戦いを話に出す必要はないのでエピソードをくっつけた。
報酬
ドロップアウトした友人の声援を背に、私はファイナルテーブルに移動した。独特の緊張感と高揚感に、心臓が高鳴る。
これは報酬と言えるのだろうか?テーマには即しているが…
帰路
レベルの上昇度合いは加速し、私は何度も 10BB 以下までスタックを減らしたが、まだ生き残っている。
残りプレイヤーは 3 人。あと一人脱落したら入賞確定だ。
友人のチップを盗んでの魔術的な逃走。もちろん魔術は使ってない。
復活(失敗)
フロップで 3BB レイズ。一人乗ってきて、アウトポジションのこちらから CB を打つ。 緊張状態が長続きしたためかもしれない。あろうことか私は、友人からのアドバイスをすっかり忘れていた。
相手は 3 倍額のレイズを返してきた。
実はさっきも同じことがあった。その時は、こちらがフォールドすると、ハンドを見せつけながらブラフだったと嘲笑されたのだ。
私は腹が立っていた。ここで奴をとっちめなければ!
一世一代のオールイン勝負に出た。しかし運もここまでだった。私はついに敗北した。
オールイン勝負の再演。
宝を持っての帰還
結局、私はあと一歩のところで勝利を逃した。 最後の 1 ハンド、あそこで冷静になっていれば、入賞は夢ではなかった。 このゲームは感情的になったらおしまいなのだということが、身にしみてわかった。
それにしても、あの高揚感は忘れがたい。本当に楽しい一夜だった。
日常世界に不足していたものを獲得して帰還できたことをアピール。
結論
なんかしょうもない小学生並みの感想文になっちゃったけど、確かに最低限物語の体裁は整っている気がする。
次は実体験ではなく、架空の話を同じように作り上げてみよう。
参考文献
作家の旅路 ライターズ・ジャーニー: 神話の法則で読み解く物語の構造
クリストファー ボグラー 著、府川由美恵 訳
フィルムアート社, 2022