まちカドまぞく 3 巻(=アニメ 2 丁目 1-6 話)をライターズジャーニーの構造で分析してみる。
この記事にはまちカドまぞく3巻およびまちカドまぞく2丁目6話までのネタバレを含みます。
参考文献
作家の旅路 ライターズ・ジャーニー: 神話の法則で読み解く物語の構造
クリストファー ボグラー 著、府川由美恵 訳
フィルムアート社, 2022
ライターズジャーニーにおける英雄の旅
ライターズジャーニーにおける英雄の旅を超要約すると以下の表のようになる。
単純な対応関係としては以下のようになる。 参考のため、ライターズジャーニーで頻繁に取り上げられている「オズの魔法使い」におけるステージとの対応と、個人的に考えたけものフレンズにおける対応(仮)も示しておく。
幕 | # | タイトル | 概要 | オズの魔法使い | けものフレンズ |
---|---|---|---|---|---|
1 | 1 | 日常世界 | 主人公たちの日常を示す。賭けの対象を提示する。 | ドロシーには居場所がないと感じられる。「おうちにいる」気がしない。冒険の小型モデルとして、豚の囲いの手すりから落ち、使用人たちに助けられる。 | かばんはさばんなちほーを彷徨する。 |
1 | 2 | 冒険への誘い | 原状の問題を示唆し、冒険の賭けをつり上げる。 | ミス・ガルチがトトを連れ去る。ドロシーはエムおばさんに叱られ、家を飛び出す。 | かばんはこの世界と自身についての知識を持たない。身体能力も貧弱。 |
1 | 3 | 冒険の拒否 | 冒険の危険性を読者に提示する。 | マーベル教授の説得は成功し、ドロシーは家出を諦め家に帰る。だが旅はすでに始まっており、エムおばさんのいる地下室に入ることはできない。 | 自分は相当駄目な動物だったと落ち込む。 |
1 | 4 | 師との出会い | 冒険の準備をさせる。助言、魔法の道具の付与。 | 師はマーベル教授およびグリンダ(、3 人の仲間、オズの魔法使い)。グリンダは未知の国のルールを教え、ルビーの靴を与える。 | サーバルはかばんを励まし、引き続きさばんなガイドする。カバはセルリアンの情報を与える。 |
1 | 5 | 最初の戸口の通過 | 実際に冒険が始まる。日常世界の帰還限界点を超える。 | 竜巻がドロシーを家ごと吹き飛ばす。 | エリア境界のセルリアンとの戦闘。かばんはサーバルと別れ、じゃんぐるちほーへ歩き出す。 |
2 | 6 | 試練、仲間、敵 | 特別な世界のルールを学ぶ。 | 黄色いレンガ道で 3 人の仲間に出会う。道中、魔女の妨害に合う。 | サーバルその他多くのフレンズとの遭遇。叡智による問題の解決。 |
2 | 7 | 最も危険な場所への接近 | 最深部の洞穴に入る準備や計画を行う。 | エメラルドシティの衛兵はドロシー達の侵入を許さないが、グリンダの言いつけであると主張し許可される。魔女の城に入るため、敵の皮をかぶって敵の群れに飛び込む。 | 10 話から 11 話。パークの過去をミライの録音から知る。大型セルリアン撃退の作戦計画。 |
2 | 8 | 最大の苦難 | 最大の恐怖に立ち向かう。英雄の死と再生。自我の超越。イニシエーション。 | 魔女はドロシーを追い詰め、一人ずつ殺すと宣言する。ドロシーは火のついたかかしを救うため水をかけるが、それは魔女の弱点だった。 | かばんは自己犠牲によりサーバルを救う。 |
2 | 9 | 報酬 | 目的としていた霊薬、探し人、知識等の獲得。 | ドロシーは魔女の箒を獲得する。仲間は魔法使いから父親からの承認を受ける。 | 誕生時の状況がアライさんから伝えられ、かばんは自身の出自を知る。 |
3 | 10 | 帰路 | 日常世界へ帰ろうとする。奪取した報酬の持ち主に追われることも。 | ドロシーは熱気球に乗りそこねる。 | ヒトの縄張りを探す旅に出ようとする。 |
3 | 11 | 復活 | 死と再生の再演。帰還前に新たな存在に生まれ変わり身を清めなければならない。 | 「おうちが一番」と認識する。 | かばんはサーバル達を置いて旅に出る。 |
3 | 12 | 宝を持っての帰還 | 報酬を日常世界に持ち帰り、共同体に役立てる。 | 家というものへの新しい観念、自己の新しい概念をカンザスに持ち帰る。 | かばんはサーバルと共に旅に出る。 |
では、この構造をまちカドまぞくに適用するとどうなるだろうか。
まちカドまぞくの分析
まちカドまぞく 3 巻(まちカドまぞく 2 丁目 1 話から 6 話まで)のイベントは、以下のように英雄の旅の各ステージに割り当てることができそうだ。
# | タイトル | まちカドまぞく |
---|---|---|
1 | 日常世界 | 他のまぞくを訪ね、千代田桜を探し出すことが当面の目標。 |
2 | 冒険への誘い | 桃を笑顔にすると決意する。 |
3 | 冒険の拒否 | 虫歯菌一発芸が失敗に終わる。 |
4 | 師との出会い | シャミ子はなんとかの杖を入手する。 |
5 | 最初の戸口の通過 | 喫茶あすらに向かう。 |
6 | 試練、仲間、敵 | カチコミの後、店長・リコとのやりとりを通して、新たな手がかりを得る。 |
7 | 最も危険な場所への接近 | シャミ子は自身の深層意識へ侵入する。 |
8 | 最大の苦難 | シャミ子は幼少期の嫌な記憶に追い詰められる。桃は闇堕ちを決意する。 |
9 | 報酬 | 千代田桜との遭遇。コアがシャミ子自身に埋めこまれている事を知る。 |
10 | 帰路 | 深層意識からの脱出。 |
11 | 復活 | 桃は闇堕ちから復帰する。 |
12 | 宝を持っての帰還 | 千代田桜の真実を伝え、シャミ子は桃を笑顔にすることに成功する。 |
なかなかきれいに対応付けができた気がする。
補足
もちろん、まちカドまぞく 3 巻のすごさは構造的に英雄の旅をなぞっているよねというだけでは説明できないと思っている。
特に、今回の旅がシャミ桃の(神話的な)聖婚の儀式を兼ねており、それが千代田桜やごせんぞリリスからの承認を得ているというのは特筆すべきことだろう。 その辺はまた今度、「千の顔を持つ英雄」を読みながらより詳しく考察したい。
そんなことより
これまで超ハイペースで進めてきたのに最後に桃の笑顔を見たシャミ子が泣き出しちゃうところで贅沢に時間使ったの本当に素晴らしかったし、1 期 OP「まちカドタンジェント」を流されたときには自分も泣きかけました。
この作品を追ってて良かったと思えた一瞬でした。
「ときめきランデヴー」も大好き。毎晩聴いてます。