「好きなゲームを挙げろ」と言われたら、3 番目くらいに出てくるのが 2002 年 11 月 14 日に発売された『ブレス・オブ・ファイア V ドラゴンクォーター』。 プラットフォームは PS2。
このゲームの良さについて淡々と語っていきたい。
この記事に、説明書に書かれている範疇を超えるネタバレはありません。安心して閲覧してください。
ネタバレの無いストーリーの概要
大昔の災厄によって地上に住めなくなった人類は、空を捨て、大深度地下都市に閉じ込もることとなった。 レンジャー(治安維持部隊)として働くリュウは、色々あって地下 1000m から地上を目指すことを決意する。
ゲームシステム
このゲームの魅力は何か?一番大きいのは、その特殊なゲームシステムだ。
『ブレス・オブ・ファイア V ドラゴンクォーター』(以下ドラクォ)は、過去の『ブレス・オブ・ファイア』とは全く違う。 違いすぎて、『ブレス・オブ・ファイア』ファンの反感を買い、シリーズに終止符を打った元凶としても悪名高い。
そして、ゲームシステムのすべてがその不寛容さでプレイヤーを苦しめ、クリアへの意志を削ぐように機能している。
過酷な戦闘バランス
戦闘システムが、本当に面白いと同時に辛い。
バトルはミニチュアゲームのようなシステムを取っている。マス目は無く、キャラクターを自由に動かすことができる。 攻撃が届くかどうかは、敵とのユークリッド距離によって決まる。
各キャラクターは毎ターン AP(行動力)を与えられ、AP が尽きるまで移動や攻撃を好きに行える。使い残した AP は次のターンに持ち越すことができる。
パーティーメンバーは序盤を除いて以下の 3 人で変化しない。
リュウ
剣で戦うタンク。敵とほぼ隣接しての近接攻撃担当。他の二人に比べるとかなり打たれ強い。
ニーナ
魔法使い。フィールド上にトラップを仕掛けたり、中距離で複数の敵を攻撃するスキルを持つ。また、属性攻撃も豊富で、弱点を突くことで大きなダメージを与えることができる。 極端に脆いので、絶対に前線に出してはいけない。
リン
銃による遠距離攻撃を担当。敵にデバフを与えたり、敵の位置を動かすスキルが多い。 まあまあ脆いので、やはり前線に出してはいけない。
3 人はそれぞれ特化した能力を持っている。裏を返せば、一人でも戦闘不能になると一瞬でパーティーが壊滅状態に追い込まれる。
では毎戦闘ごとに HP 全快状態で挑もうとすると、それは許されない。ドラクォには回復魔法は存在せず、お金を払って全快できる宿のような施設も存在しない。 回復は、フィールドや店で入手できるアイテムに頼るしかない。 しかし回復アイテムは高額だし、アイテム枠が限られているので買いだめするわけにもいかない。
戦闘はフィールド上の敵とのシンボルエンカウントによって発生する。 こちらから攻撃して戦闘を開始した場合にはこちらに先制攻撃権(1 ターン分の AP、持ち越し不可)が与えられ、そうでない場合には敵から先制攻撃される。
先制攻撃を受けてニーナが戦闘不能に陥ると最悪で、こちらのターンが回ってくる前に全滅あるいは万策尽きた状態になることも普通にある。
ボス以外では戦闘から逃げることもできるが、そのためにはその部屋のドアまで行くか、所持金を 10% 失うペナルティ逃走を行うか、「エスケープ」アイテムを使うしかない。
フィールド上で爆弾をぶつけて HP を削ったり、爆弾を設置してから先制攻撃を行い、敵に攻撃の機会を与えずに殲滅するのが定石になる。そのため、雑魚戦闘 1 つとってもミスが許されない緊張感が無限に続く。
有限のセーブ回数
ドラクォでは、セーブにかなり厳しい制約が設けられている。 強敵に備え、メニュー画面を開いてこまめにセーブする…なんてことは許されない。
セーブは各地に設置された「テレコーダー」でしかできない。しかも、セーブには「セーブトークン」というアイテムを 1 個消費する。
「セーブトークン」は 1 プレイの中で取得できる数が厳密に決まっている。フィールド上の特定の地点からしか入手できず、店で買うこともできない。後述するが、「セーブトークン」を次のプレイに持ち込むことすら禁止されている。
安易なセーブを許さない姿勢は徹底している。セーブデータは一つしか作れず、コピーすることはできない。
一応、「中断セーブ」機能はある。これは好きな場所でメニュー画面からセーブができるというものだが、ロードすると同時に破棄されてしまう。なので、やはりこまめにセーブ戦略は取れない。
D-ダイブ
さて、そろそろ本題に入ろう。ドラクォというゲームを語るには欠かせないシステム、それが D-ダイブである。
ゲームの序盤で、リュウはドラゴンの力を手に入れる。 以降、戦闘中に自由に D-ダイブ(ドラゴン化)が可能になる。
これは超強力で、ドラゴン化すると AP 消費無くフィールド上を自由に移動できたり、D-チャージ(攻撃力倍加)を重ねがけして最大 1024 倍の攻撃力を得たり、無限の射程を持つ破壊光線 D-ブレスをぶっ放したりできる。 最終盤のボスですら、D-ダイブさえすればほぼ 1 撃で倒すことができる。
D-カウンター
しかし、このチート能力を使うには滅茶苦茶大きな代償を支払わなければならない。それが D-カウンターである。
D-ダイブが使用可能になると同時に、バトル中でもフィールド上でもメニュー画面を開いていても、常に右上にニキシー管風味のパーセンテージが表示される。
これが 100%に到達するとゲームオーバーであり、減らす方法は一切ない。
そして、D-ダイブは D-カウンターを思いっきり上昇させる。
- D-ダイブした時点で 1%上昇
- D-ダイブしたままターンを終える度に 2%上昇
- D-チャージ 1 回毎に 2%上昇
- D-ブレス 1 秒(=通常 600 ダメージ)毎に 3%上昇
当然、雑魚戦闘で毎回 D-ダイブを使っていたら一瞬でゲームオーバーになる。
しかも嫌がらせのように、D-ダイブを一切使わなくても
- フィールドを 20 歩歩く毎に 0.01%上昇
- D-ダイブせずにターンを終えるごとに 0.01%上昇
していく。0.01%というのは冷静に考えれば大した量ではない(仮に D-ダイブを一切使わずにゲームをクリアすると、30%くらいで済むらしい)のだが、ジワジワと死に近づいているのを常に見せられていたら、落ち着いて探索もできない。
初回プレイ時にはいつゲームが終わるのかすらもわからないので、D-カウンターのペース配分もクソもない。ただひたすら、D-ダイブを使わざる得ない状況に陥らないよう祈りつつ、次のセーブポイントに到達するのを待つことしかできない。
SOL システム
D-カウンターがどうしようもない状態になったら、ゲームをやり直すしかない。 この時、単にやり直すのではなく、「強くてニューゲーム」が可能である。これが SOL である。
SOL を使うと、装備していた武器、倉庫に預けていた道具と武器、スキル、パーティー経験値(通常の経験値とは別枠で入手でき、好きなタイミングで好きなキャラクターに割り振ることができる)を引き継ぐことができる。
そして当然、次のプレイではプレイヤーの知識も引き継がれる。敵の特性や弱点を知っていれば戦闘はかなり楽になるし、次のボス戦やセーブポイントの位置がわかっていれば、道具をどれくらい揃えて行くべきか、そして何より D-ダイブをいつ使うべきかといったペース配分もできる。
このシステムの存在により、ドラクォは RPG でありながら「何度も死にながら覚えて強くなる」という STG じみたゲーム性を持つことになる。
ストーリーとゲームプレイのレゾナンス
ドラクォは、ゲームの本質である「リスクとリターン」を、これでもかというくらいプレイヤーに投げつけてくる。 しかも、それは「リスクを上げればリターンも増えるよ」といったポジティブなものというよりは、「リスク A とリスク B、どっちがマシ?」という性質の選択である。
- 目の前に敵が現れた。
- 戦闘すれば、全滅のリスク。
- 逃げれば、後々経験値やアイテムが不足するリスク。
- セーブポイントに到達した。
- セーブすれば、セーブトークンが不足するリスク。
- セーブしなければ、全滅してここまでの進捗を失うリスク。
- 未鑑定の武器(鑑定屋に持ち込むまで正体がわからず、装備もできない)を拾ったがアイテム枠がいっぱいだ。
- 未鑑定武器を捨てれば、実はそれが超強力な武器だったリスク。
- 毒消しを捨てれば、実は後になって毒状態にしてくる敵が大量に現れるリスク。
- パーティーが半壊した。
- D-ダイブを使えば、データ自体が詰みになるリスク。
- D-ダイブを使わなければ、全滅のリスク。
そんな状態で、いつ終わるともしれぬ暗闇の中を模索し続けることになる。
ここまででドラクォがとんでもないマゾゲーであることがわかったと思う。 まともな救済措置は SOL くらいしか無く、それですらも全ての進捗リセットという代償を伴う。
正直、滅茶苦茶しんどいゲームだ。プレイ中は、文字通り一秒たりとも気が休まるタイミングがない。 この苦しみから解放されるには、ゲームをやめて、クリアを諦めるしかない。
この苦しみが、実はストーリーとの完璧なレゾナンスを生んでいる。
舞台は破綻しかけた地下都市なので、どこまで行っても暗い背景が続く。 多くの障害が立ちはだかるが、それでもリュウは自らの死(D-カウンター)と向き合いながら空を目指す。
そうして手に入れるゲームクリアの爽快感は、他のゲームではそうそう味わえない、忘れられないものになるはずだ。
ドラクォのもう一つの顔: First Quarter
おまけでやりこみ要素について紹介しよう。
ドラクォでは、SOL 時とゲームクリア時にプレイ内容が評価される。 First Quarter とは、SOL を一切使わず、1 周目で最高評価 1/4 を獲得してクリアするというやりこみプレイである。
そのためには、以下の条件を満たさなければならない。
- パーティーメンバーの平均 LV が 50 以上
- 以下のプレイ成績ポイントの総和が 50 点 以上
- クリアタイム: 8 時間以内で 10 点
- EX ターン獲得率: 95%以上で 10 点
- マップ踏破率: 98%以上で 10 点
- トレジャー BOX 回収率: 42 個以上で 10 点
- セーブ回数: 0 回で 10 点
- ココン・ホレ(おまけダンジョン): 全 50 階制覇で 10 点
自分の初回プレイ時には、LV 点を除外して 20 点相当の評価しか貰えなかったということを申し添えておく。
ここで問題になるのが、パーティーメンバーの平均 LV を 50 にすることは必須要件であるという点である。 ドラクォでは、敵は一切リスポーンしない。すべての敵を普通に倒しても、初回プレイで LV50 に到達するための経験値を稼ぐことはできない。
そこで登場するのが「ゴールド EXP」というアイテムである。これはアイテム枠を一つ埋めてしまうが、1 個所持するごとに 5%、最大 100%取得経験値を増加させる。 レアコンテナから確率で入手する以外に、確定で入手する方法として、共同体のアイテム研究所を使う方法が残されている。 この方法を使えば、かつ、この方法に頼ることによってのみ、1 周目でゴールド EXP を 20 個回収し、LV50 に到達するのに十分な経験値を稼ぐことができる。
しかし、今回の論文を編集していて思ったのは、制作側もこのプロジェクトの類のやり込みは想定していて、達成できるように答えを1通りだけ用意したのであろうという事。いや、達成できるように後付けでシステムを変更したのかもしれないとまで思える。 (略) もし制作側がファーストプレイ1/4達成モデル手順を手元に用意していたら、きっとこのプロジェクトの内容とほぼ合致するはずである。そう言い切れてしまうほど、答えはほぼ1つしかないのである。
このゲームがどれだけ緻密に作られているか、よくわかるはずだ。
さいごに
ドラクォは明らかに万人受けするゲームではない。 しかし、刺さる人には刺さる強烈なものを秘めた作品だ。 もしあなたが刺さる人だとしたら、きっとドラクォは忘れられない一作になるだろう。
ここまで読んで面白そうだと思った方は、是非一度何も情報を入れずに遊んでみてほしい。