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ACE COMBAT 7 Skies Unknownの物語考察と感想

この文章では、ACECOMBAT 7 Skies Unknown について、けものフレンズ考察班として得た知識を武器に、そのストーリーの考察を行う。

本作品のストーリーの出来については賛否両論あるようだ。私も確かに、少し唐突な展開がいくつかあったように思う。

とはいえ全体として見ると、本作のシナリオは極めて高いレベルでまとまっている。 7 の物語はエースコンバット史上最高であると結論づけたい。

この文章は、私がなぜそう思ったか、即ち本作のストーリーの魅力を説明するため、そして新たな見方を提供することで、視聴者の方々により一層本作品を楽しんで頂くためのものである。

同時に、説明した内容に間違いがあったり、よりエモい解釈があったらぜひ教えてほしい。字数削減のために言い切りの形で文章を書いているが、実際にはどの考察も自信 40%くらいで書いている。

この文章は確か2年位前に書いたものです。元々は動画化する予定だったのですが、めんどくさくなってお蔵入りしていました。 そのため、文章はかなり動画のスクリプト向けになっています。

また、今読むと🤔な箇所もいくつかあり、それらは今後の版で修正する予定です。

本論

では早速、本題に入っていこう。 この物語には、以下に示す 3 つの要素が絡み合っている。

  • 第一に、「ヒト対機械(AI)」
  • 第二に、「空への憧れ」
  • 第三に、「トリガーの英雄譚」

それぞれの要素について、どこからそれが読み取れるか、またそれが何を意味するかを順に説明していきたい。

ヒト対機械 (AI)

まずは第一のテーマ、「ヒト対機械(AI)」について述べていこう。これはかなり単純である。

情報化時代になって、多くの作品が、あまりにも強大な力を得たために人類にとっての脅威となった AI との戦いを描いてきた。ターミネーターはその代表例である。

本作においても、このテーマは色濃く現れている。本作 M12 において、ストーンヘンジによるアーセナルバードの破壊を成功させる鍵となったのは、最終的に目視、即ちヒトの力によるものであった。

«少佐 諦めるな センサーはまだ残っている 世界最古のセンサー 目ん玉がね»

Wo. Lehmann

M18 以降ではミハイの機動を学習した無人機の自己生産という典型的な「AI の叛乱」の物語が展開される。最終的にそれはヒトの代表であるトリガーによって鎮圧されることとなった。

以前の動画で、全く異なるプロットが並行して進む例として本シリーズ 04 を取り上げたのは覚えているだろうか。本作 7 でも同様の手法が取られている。 そして、今回のサブストーリーの主人公は、人類と機械の仲介者であるエンジニアである。このことも、人類と機械というテーマを際立たせる働きをしている。

さて、以下の表に示すのは、過去作品における最終的な敵と、その敵が象徴していたと思われるものをまとめたテーブルである。

作品最終的な敵象徴的な意味
(初代)空中要塞クーデター軍の切り札
2イントレランス要塞クーデター軍司令部
3??????
04メガリスエルジア残党
5SOLGベルカ、15 年前の因縁
ZEROPIXY国境の否定
6シャンデリア小惑星がもたらした災厄
7HUGIN,MUNIN,ADF-11AI、ヒトならざる者

特に注目していただきたいのは、「象徴的な意味」の列である。04 や 5 まではクーデター軍や国家間での争いを描いていたのに対し、ZERO における最終的な対立相手は国家ではなく、そもそも国家・国境の存在を否定する集団となっている。

6 では一貫してエストバキアという国家が敵であった。しかし、その単純な勧善懲悪の構図はグレースメリア解放の時点で終結する。最終ミッションの破壊目標であるシャンデリアは、エストバキアの象徴というよりは、小惑星の衝突と、それによってもたらされたあらゆる災厄の象徴として描かれていたように思われる。

ユリシーズが生んだ悲しみに その手でピリオドを打つのだ

6-M15 ブリーフィング

7 でも 6 と同様に、そして 6 より明確に、国家間の対立という枠組みは M17 をもって終結する。通信網の混乱によって部分的に国家の枠組みが消滅し、最終的には人類対 AI という構図に帰着する形になっている。

こうして見ると明確だが、5 以前のストーリーと ZERO 以降のストーリーの大きな違いは、どこかの国家を悪者として、単なる勧善懲悪を描くわけではないということだ。

「世の中には分かりやすい善と悪があるわけではなく、相手から見ればこちらが「悪」かもしれない。 正義と正義をぶつけ合っているから終わらない。もはや適切な倫理規範など一つも存在しない。

…という相対化の流れが、社会的に強まってきたことを反映したものなのかなと思う。

空への憧れ

次に第 2 のテーマ、「空への憧れ」について取り上げる。

これもかなり単純で明確である。スクラップクイーンもミハイも、本作の主要な登場人物は皆、空に対する憧れを抱いていた。 そして何より、我々プレイヤーのアバターであるトリガーもまた、空を目指すことを運命づけられたキャラクターであった。

それが象徴的に示されているのが最終ミッションである。トリガーは最後、本作最後のトンネルミッションとして軌道エレベータの内部を通り、ダークブルーの世界へと到達する。台詞が無いため、トリガーという人物の性格は不明だ。 しかし少なくとも、その操作主、即ちこのゲームのプレイヤーは、そのような憧れをもって本作を購入したはずである。

空への憧れを持ったキャラクターとして代表的な例は、蝋の翼で飛行能力を得たヒト、イカロスである。しかし彼の翼は太陽に近づきすぎたことで溶け、墜落してしまう。そこには、空を飛ぶことに対する欲求と、それは叶わないことであるという二つの相反した思いが込められている。

過去作品の振り返り

空への憧れというテーマはシリーズを一貫している要素であるが、特に 04 では明確に描かれていた。その最高の例が、04M7、ソラノカケラ(Shattered skies)である。

04 の前半は、全てこのミッションの価値を高めるように構成されていると言っても過言ではない。 このミッションにおいて、プレイヤーは偵察衛星の打ち上げ基地を防衛するため、広大な戦闘空域を縦横無尽に飛び回り純粋で大規模な空戦を楽しむことになる。

「ソラノカケラ」の評判は制作陣にも知れ渡っているらしく、その後のシリーズでもいくつか、この体験を再現することを試みた「純粋で大規模な空戦」ミッションが存在している。

ZeroM10 Mayhem、6M12 大量破壊兵器無力化 (後半)、7M19 Lighthouse(前半)がその代表例だろう。

これらのミッションはいずれも、「純粋で大規模な空戦」というコンセプトが一致している。

また、この体験を最大化するために、いずれのミッションもその直前に比較的重い対地攻撃ミッションを配置することで、空を自由に飛ぶ爽快感を際立たせるよう構成されている。

例えばソラノカケラ以前には地上攻撃ミッションがやたらに多い。その上、直前ではストーンヘンジの攻撃を受け、無理やり地表以下の高度を飛行させられる。

しばしば 04 の批判として「対地ミッションが多すぎる」という声を聞く。これは確かに事実なのだが、その背景には制作陣の明確な意図があったように思われる。デザイナーの人はそこまで考えているのだ。

加えて、これらのミッションには共通して、プレイヤーを英雄に仕立て上げる仕掛けが施されている。

  • Mayhem
    • 「円卓の鬼神」の通り名を与えられる
  • 大量破壊兵器無力化
    • 大量の仲間が支援に駆けつける
    • グレースメリアのライトモチーフ使用(M1: Invasion of Gracemeria の再演)
  • Lighthouse
    • 無線からシチュエーションまで色々
    • トリガーのライトモチーフ使用(M1: Charge Assault の再演)

しかし、ソラノカケラの体験を再現することに成功したかと言われると、もう一点、Lighthouse にあって Mayhem や大量破壊兵器無力化には足りないものがあった。このことは後ほど説明する。

トリガーの英雄譚

そして最後に、「トリガーの英雄譚」というテーマについて取り上げる。

過去作品振り返り

プレイヤーを英雄として仕立て上げ、その爽快感を楽しませてくれるのは、Ace combat というシリーズの最大の特徴である。この伝統は、少なくとも無線システムが完成した 04 から明確に意識されている。

エースパイロット気分は自由に飛んで戦うゲームプレイと 英雄になっていくストーリーで作られます。

どんな物語にしたいか共有する〜『エースコンバット7』のナラティブ制作手法〜

5 では、プレイヤーはダイレクトに神話的な意味での英雄に仕立て上げられた。 3 幕から成るラーズグリーズの悪魔の伝承は、英雄が日常の世界から死者の世界へ落ち、そこから復活を遂げて英雄として完成するという「英雄の旅」構成を露骨なまでに表したものである。 主人公達はこの伝承をなぞる形でこの旅を完成させる。

歴史が大きくかわるとき

ラーズグリーズは その姿を現す

はじめには 漆黒の悪魔として

悪魔は その力をもって 大地に死を降り注ぎ―

やがて死ぬ

しばしの眠りのあと―

ラーズグリーズは再び現れる

英雄として現れる

5 のテーマソングである”The journey home”の歌詞にも、地上という日常の世界から天上の世界へと赴き、そこで得た霊薬を地上に持ち帰るという英雄の旅の構成が示されている。

はるか空の上から眺める激しい嵐の中

そこには答えが、そして希望がある

旅で得たものに導かれ故郷に戻るとき

さまざまな想いを託し

植える種のように

時が経てばやがて育つ

ZERO における主人公の物語はアーサー王物語に擬えられている。これはしばしば英雄譚の代表例として挙げられる物語である。

この振り返りからわかる通り、本シリーズにはプレイヤーを英雄として仕立て上げるという通底したテーマがあり、またそれを実現するために、神話的なモチーフを巧みに取り入れてきた実績がある。 私が本作 7 をシリーズ史上最高の物語であると結論づけたのは、この点において本作の演出が素晴らしく感じたからである。

7 における取り組み

トリガーの物語が典型的な英雄の旅となっていることに異論はないだろう。だが、ここには 2 つの「旅」が混在しているように思われる。

第一の旅は対エルジア戦争の英雄としての旅である。

彼は INU という日常の世界から懲罰部隊という非日常の世界へ落ちるが、試練の道の途中で防空網の穴という霊薬を手に入れ、LRSSG という日常の世界へと復帰する。彼は霊薬を用いてファーバンティを攻略し、成功裏に戦争を終結させる。

AWACS Long Caster

«いいぞ! 相当な戦果が上がっている

これで戦争が終わる 君らは英雄だ»

※目標スコア達成時の”攻略無線”

ファーバンティ攻略をもって、トリガーは対エルジア戦争の英雄として完成する。もし、ここでゲームが終了し物語が完結したとしても、この英雄性は揺らがない。

しかし、そうはならなかった。シリーズお得意の偽終止が炸裂し、もう一つの英雄譚、すなわち「対ヒトならざるもの」戦争の英雄としての性質が浮かび上がってくる。

そしてこの英雄性は、より純粋に神話的なものとして、様々なモチーフによって補強されている。 その中でも特に象徴的なものが、世界軸として描かれた国際軌道エレベーターである。

世界軸としての軌道エレベーター

世界軸とは何か。以前の動画でも少し取り上げたが、もう少し深く掘り下げてみよう。

人類ははるか昔から、この世界を「回転する円盤」として捉えていた。円盤の中心には当然回転軸があり、円盤に直行する軸が貫いている。軸は天と繋がっていて、世界を回転させるエネルギーは天上の世界から得ている。

これが、1 万年以上の昔から人類の遺伝子に刻まれている、”このせかいのしくみ”についての人類共通の理解である。そして、世界軸というシステムの素晴らしさは、洋の東西を問わず、すべての人類が共通して持っている概念らしいという点にある。

例えば軸は「崑崙山」や「アトラス山」であり、そこから流れるエネルギーは「黄河」や「ナイル河」として解釈された。

この発想を起点に、様々な物語が生まれることになる。古今東西様々な軸の実装例を列挙してみよう。

  • 張騫は黄河の源流を目指し、崑崙山を通って織姫と彦星が居る天上の世界へと到達した。

張騫が地上に帰ってくると、夜空に新しい星が輝いていたという。

この中国の故事は紀元前 140 年頃のこととされているが、興味深いことにローマでも紀元前 134 年にさそり座で新星が観測された記録が残っているという。

  • ヘラクレスはアトラスのもとへ行き、ヘスペリデスの園(≒ エデンの園)にある黄金のリンゴを入手した。

  • ある帝は駿河にある山の頂で不死の薬を燃やし、月まで届く煙を立ち昇らせた。

  • ある船乗りは、北極の大穴から我々が住む地球表面の裏側に存在する楽園に至った。

地球平面説が否定されると、人類は「天上の世界」をもう一つの不可知領域である地底にも求めることになる。すなわち、地球の裏側に存在する楽園と、そこへ繋がる北極の大穴から構成される地球空洞説の誕生である。

垂直方向の移動は異界への移動と等価である。

  • ある科学者は最上階の小部屋で人間を作る神の作業を模倣しようとした。

  • ある男は地上の人々に死を振りまく怨霊の正体が、井戸の底に遺棄された遺体によるものであることを突き止めた。

  • ある怪談はエレベーターで特別な手順を踏んで上下することで異世界へ移動できると主張する。

……

21 世紀になっても、1 万年以上続く世界観が崩れることはない。

軸にまつわる物語における英雄の目的はだいたい、「軸への到達」と「軸の確立/正常化」である。

軸は楽園に繋がる道であるから、軸を目指すのは当然である。 また、この世界は軸が供給するエネルギーによって存続しているのだから、軸が適切な異界に差し込まれていないと、エネルギーの枯渇や好ましくないエネルギーの流入により、世界の危機が訪れる。

後者の例を更に見てみよう。

  • あるニンゲンは、地上と地底を繋ぐ山を通ってモンスターの世界へ落ちた。彼女は物語の最後に山のバリアを破り、2 つの世界を繋ぐ軸を正常化する。

  • また別のヒトは、火山が放ったエネルギーによってけものの世界で目覚める。彼女は物語の最後に火山のフィルタを復旧し、2 つの世界を繋ぐ軸を正常化する。

「軸の確立」というモチーフは、現実世界にもよく現れる。

  • 1960 年代には、地球から異世界に人類を送り込むための軸を建設する競争があった。

  • ある軸は古来岬であった場所に建設された。軸は彼岸から霊的エネルギーを得て、電波として関東全域に拡散する。

海に突き出した大地は彼岸と此岸の最前線であり、この軸はそれを繋ぐ架け橋である。

  • ある軸は半島に建設された。この軸には太陽光発電システムが備えられており、地上に莫大な電気エネルギーを供給する。世界一高い電波塔として、大陸全域に情報を発信する能力を持つ。

もちろん、最後に紹介したこの軸とは、国際軌道エレベーターのことだ。 というわけで、ようやく Ace Combat 7 の話に戻れた。トリガーの持つもう一つの英雄性は正に、この軸にまつわるものである。

トリガーは世界軸を正常化する英雄である。

これが、世界軸という発想を中心に考えることで見えてくる、本作のより核心に迫った英雄譚である。

前節で述べた、ソラノカケラや Lighthouse にあって、Mayhem や大量破壊兵器無力化に無いのも、この世界軸のモチーフである。

軸の確立という意味では、ソラノカケラの体験により近いミッションとして、5M6 White Bird (Part 1)や ZEROM18 ZERO、 7M13 Bunker Buster が挙がることになるだろう。 ソラノカケラや White Bird は世界軸を確立する物語であり、ZERO や Bunker Buster は敵の世界軸確立を阻止する物語である。

トリガーの英雄譚のまとめ

というわけで、人類代表としてのトリガーの英雄譚は以下のようなものになる。

戦争の過程で楽園ではないどこかに挿し込まれた軸は、世界に異常なエネルギーを拡散しようとする。ヒトならざるものとの戦いを制し、適切な異界へ繋がるよう軸を正常化したトリガーは、軸を通ってダークブルーの天上世界へと消えていく。

軸の正常化と、それを用いた天上世界への昇華。

これこそが本作の核となる体験である。 ゲームの最初に示されるスクラップクイーンの物語、ゲームの最後にプレイヤーが行う操作、どちらともこのテーマを明示するものである。

トリガーが正常化した軸を伝って、異世界からは早速恵みがもたらされはじめる。 ピルグリム Pilgrim は巡礼者の意。宗教的な軸には、世界から巡礼者が集まる。

まとめ

というわけで、AceCombat7 の物語を「ヒト対機械(AI)」「空への憧れ」「トリガーの英雄譚」という 3 つの観点から分析した。 これらの要素は独立したものではなく、巧みに織り上げられ、本作の体験としてのゲシュタルトを見事に構築している。

この動画では「物語」にのみ焦点を当てた。更にその物語の中でも、トリガー以外の人物については十分に語ることができていない。 本作の魅力を構成する要素の、まだほんの表層にしか触れていないのである。

本作を愛する人達に、また新たな楽しみ方を提案することができていたら、あるいは本作を未だプレイしていない人に、このゲームの素晴らしさを伝えることができたならば、この上なく幸せである。

これが神話と象徴を理解する重大な鍵なのだが――、二つの世界は実は一つなのである。神々の世界は、私たちの知るこの世界の忘れられた次元である。

ジョーゼフ・キャンベル『千の顔を持つ英雄』

要点まとめ

エースコンバットシリーズの面白さはどこにあるか?

自由に飛んで戦うゲームプレイと、英雄になっていくストーリーが生み出すエースパイロット気分。

エースコンバット7の主人公であるトリガーは何者か?

空への憧れを持った、IUNの英雄かつ人類の英雄。トリガーは戦争を終結させ、ダークブルーの世界へ繋がる世界軸を復旧する。

物語における世界軸とは何か?

人類ははるか昔から、この世界を「回転する円盤」として捉えていた。円盤の中心には当然回転軸があり、円盤に直行する軸が貫いている。これを世界軸と呼ぶ。軸は天と繋がっていて、世界を回転させるエネルギーは天上の世界から得ている。

物語における世界軸の例はなにか?

古くは崑崙山やアトラス山。世界軸は、本質的には平面に直交する動きを可能にするものなら何でも良い。井戸やエレベーターもその対象になり得る。現実世界でも、例えば東京タワーは世界軸的な象徴に満ち溢れた建造物である。

This post is licensed under CC BY-NC 4.0 by the author.

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